オープンシステム関連情報
各種メディアへの掲載、建物の受賞等、オープンシステムに関する情報です。
 

イエヒトVOL.9 講座1
  家の品格 瑕疵担保履行法で小さな業者が大混乱している

イエヒト9号/家づくり講座1

家の品格 瑕疵担保履行法で小さな業者が大混乱している



『イエヒト』編集長 一級建築士 山中省吾





9 万円の工事を受注するのに
7 万円の保険加入義務!?


家の品格。
この講座で取り上げる品格とは、品位や格調のことではない。
品質と価格のことである。

今号は「住宅瑕疵担保履行法」が家の品格にどう影響するか、深く掘り下げる予定だった。
しかし、そんな場合でなくなった。瑕疵担保履行法を分離発注に適用すると、法律の解釈や手続きがたちまち複雑になって、専門業者が大混乱しているのだ!

そこで、まずは専門業者の混乱をレポートし、誌面に余裕があれば瑕疵担保履行法と家の品格の関係について考えてみることにした。


該当業者なので
保険加入の義務が…

 
愛知県で防水工事業を営むSさん。ある住宅の見積りに参加した。
施工面積12・0uのベランダの防水工事。
見積り金額は税込みで9万720円。

後日、設計事務所からFAXが届いた。
「拝啓、時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
先日は住宅T新築工事の見積りに参加いただきありがとうございました。
建築主を交えて検討した結果、貴社と契約を交わすことにしましたので連絡します。
つきましては、下記のように契約会と工程会議のご案内をいたしますので……」

Sさんは、これまで何度か分離発注を経験している。
ハウスメーカーの下請けで行なう防水工事も、建築主と直に契約を交わす防水工事も、工事の内容に何の変わりもない。

ところが、契約会の案内が届いた翌日、設計事務所から電話が入った。
「S防水さん、防水工事業の許可ありましたっけ?」
「もちろん、ありますよ」
「実は、ややこしいことになりまして。
S防水さんは瑕疵担保履行法の該当業者になるので、保険加入の義務が生じるんです」


きっと何かを
勘違いしている
わずか9万円の防水工事を受注するにあたって、約7万円の保険に加入しなければならない。
そんなバカな。法律で決まったことだというが、常識ではあり得ない。

いつもおっちょこちょいな設計事務所だから、きっと何かを勘違いしているのに違いない。
と、Sさんは思った。

住宅Tの見積りには、顔見知りのK塗装も参加していた。
そこで、保険加入の件を、K塗装に電話で訊いてみた。
「住宅Tの見積り、どうだった?」
「おかげさまで、うちが受注することになりました」
「受注すると、瑕疵担保履行法の保険に入る義務があると言われたけど、そっちは?」
「そんな話、全然聞いてませんけどね」
「なんで? うちだけ?」

Sさん、今度は設計事務所に電話した。
「保険加入の件、うちだけですか?K塗装さんは?」
「K塗装さんは建設業の許可を持っていないので対象外です。
 今回の工事、S防水さんだけが該当してるんです」
「そんなあほな!」


該当する業者は
見積り競争に勝てない


鳥取県のY設計事務所。専門業者を集めて見積り説明会を行なった。
「建て主と直に契約を交わすと、建設業の許可を持っている業者は瑕疵担保履行法の保険に加入するか、供託金を積まなければなりません。
違反すると、厳しい罰則があります」

早速、業者から質問の手が挙がった。
「某工務店の説明では、下請け業者は該当しないと言ってたけど、なんで今回は該当するんですか?」

設計事務所の担当者は答えた。
「下請けのときは業者と業者の請負契約なので適用されませんが、分離発注の場合は建築主との契約なので適用されます」

また質問が。
「建設業の許可を持っている業者だけが該当するなら、許可を持っている業者は負担が大きくなり、見積り競争に勝てないのでは?」

設計事務所の担当者。事前に検討済みだったようだ。
「受注した業者から一律、保険加入に必要な費用を集めて幹事会社に渡します。
したがって、許可を持っている業者も持っていない業者も見積りの条件は同じです」

するとまた質問が。
「該当する業者が連名で保険に加入すれば、家1棟まるごと保証されるんですよね」


該当しない業者の工事は
保証の対象とならない


見積り説明会の最後の質問。家1棟まるごと保証されるのか?
設計事務所の担当者にも自信がなかった。そこで、保険法人に確認した。
すると、次のような回答が返ってきた。

「1棟分の保険料をもらうのですから、瑕疵担保履行法の対象とならない業者の工事も保証しないとマズイでしょう。
もし保証しなかったら、強制加入の保険ですから、行政訴訟を起こされても文句は言えません」
しかしこの回答は、後日覆った。
やはり建設業の許可を持っている業者の工事しか保証の対象とならないと。

この意味を、愛知県のS防水のケースに置き換えると、次のようになる。
S防水には9万円の工事を受注するにあたり、約7万円の保険加入の義務が生じる(設計事務所の勘違いではなかった)。
しかも、その場合の保証は、家1棟分の保険加入料を支払うにも関わらず、S防水が請負った部分、つまりベランダの防水だけにしか適用されない。

それを知ったS防水の社長。契約の直前に、受注を断念した。
「アホくさ。何の目的でつくった法律かわからんけど、わしにはさっぱり理解できん」


相手が特定できず
9業者が右往左往


愛知県のS防水。この不況時に9万円の工事をみすみす逃したが、結果的にはそれが正解だった。
もし受注していたら、面倒くさくバカバカしい手続きに腹を立て、キレていたかもしれない。
それは、鳥取県の業者に起きていたことをみればわかる。

幸運にもF住宅新築工事の一部を請負うことになった9業者。
不運にも建設業の許可を持っていた。

建設業の許可を持っている業者は資力確保義務が生じると説明を受けていたが、どうしていいかわからずに右往左往。
建設業者に課せられた法律なので、該当する業者間で話し合い、連名で保険を申込めばいい、と設計事務所の担当者は言ったが、自分が該当していることはわかるけど、他にどの業者が該当しているのか、それがわからない。


自力で保険加入の
申込みもできない


F邸新築工事。建築主が工事請負契約を交わしたのは21業者。
その中からどの業者が瑕疵担保履行法の保険加入に該当するか、探す手立てがなく困っていた業者。
仕方がないので設計事務所の担当者に相談した。

すると、まるで予期していたように応じてくれた。
「やはり、私が手伝わなければ難しいかも。
保険加入に該当するのはこの9業者です。
早速集まって今後の進め方を話し合いましょう」

瑕疵担保履行法に関して詳しく勉強していたY設計事務所の担当者。
この法律は建設業者を対象としたものではあるけれど、部分的な工事しか請負わない業者に、この難解な手続きなどできるはずがないと思っていた。
現に、保険加入義務に該当する業者が、自力で、他の連名で申込む相手の業者すら特定できなくて立ち往生している。
申込書を作成する以前の問題である。スタートラインにも立てない。


申込む前に
解決すべき問題


保険加入に該当する9業者を集めた設計事務所。
この9業者で話し合って、決めなければならないことを示した。

@幹事会社の選出
幹事会社は代表して事務手続きなどを行なう。
幹事会社が倒産したときに事務手続きを引き継ぐ2位以下の順位も決めておく。

A保険法人を決定
瑕疵担保責任保険の申込先を5つの保険法人の中から決める。
それぞれ保険加入料や現場検査などの条件が若干違う。

B保険内容の決定
保証限度額の設定など、いくつかの条件によって保険加入料が違ってくる。

C加入料の負担と集金方法
保険加入料を申込業者でどのように負担するか。
あるいは申込業者以外の他の業者にも負担を求めるか。
保険加入料は幹事会社の銀行口座から保険法人が引き落とす。


何から何まで
設計事務所が手続きを
最低でもこの4項目を決めなければ、手続きは進まない。
いくらお節介な設計事務所でも、瑕疵担保履行法の対象となっているこの9業者の了解なしに、手続きを進めることはできない。

設計事務所の担当者は考えた。
瑕疵担保履行法は、設計監理者に課せられた法律ではない。
何で私が、忙しい業務を割いて手伝わなければならないのか?

ほっとけばいいのだ。
しかしそれでは、この専門業者に保険加入の手続きはできない。
その結果、法律違反で処罰される。
2000万円の供託金を積まされるか、それができなければ建設業の許可の取消、あるいは新たな受注の禁止、もしくは罰金。

目の前で溺れかけている人は助けるべき。
それにしても、なんでこんなややこしい法律をつくったのか……。

設計事務所の担当者は、結局、瑕疵担保履行法の保険加入の手続きも、その後の現場検査の手続きも、それから建築主に対する重要事項の説明も、何から何まで手伝うことになった。
そして改めて思った。「とても、専門業者にできることではない」


該当する業者を
厳密に絞り込むと


F邸では、9業者の連名で保険加入を申込んだが、厳密に言えば、この中に保険加入義務に該当しない業者も含まれている可能性がある。
なぜなら、この9業者はあくまでも建設業の許可を持っている業者で「とりあえず」該当する業者である。
厳密には、この中からさらに品確法で定めた10年間の瑕疵担保責任に関する部分の工事を請負った業者に絞り込まなければならない。

品確法で定めた瑕疵は、@構造耐力上主要な部分とA雨水の浸入を防ぐ部分である。
瑕疵担保履行法の保険で保証しようとしている瑕疵も同じである。

住宅1棟まるごと請負った業者であれば、品確法で定めた瑕疵の部分が含まれているかいないか考えるまでもないが、分離発注のように、住宅の一部を請負った業者の場合はややこしいのである。
とはいえ、現実問題として、瑕疵担保履行法の保険加入を申込む際に、建設業の許可を持っているかの判定はできても、さらにそこから、どの業者が該当するかを割り出すには、請負った工事の内容を詳細にチェックしなければならない。


瑕疵担保責任保険を
連名で申込んだ9業者


F邸では、工事請負契約を交わした21業者のうち、建設業の許可を持っている9業者が連名で保険加入を申込んだ。
以下、その9業者の、建設業の許可の種類と受注した工事の範囲を列記する。
@が幹事会社でA〜Hは幹事会社が倒産した場合に事務を引き継ぐ順番である。

@規組
 許可/大工工事業/左官工事業
    とび・土木工事業/タイ
    ル・レンガ・ブロック工
    事業/鉄筋工事業
 受注/基礎工事
A祈板金
 許可/屋根工事業/板金工事業
 受注/金属屋根・樋・水切
B紀工業
 許可/防水工事業/塗装工事業
 受注/ベランダの防水・外壁等
    のコ―キング
C階
 許可/建築一式工事業
 受注/建材(合板・ボード他)
D紀塗装店
 許可/塗装工事業
 受注/外壁の塗装・外部木部塗
    装・壁の塗装
E鬼電気工事
 許可/電気通信工事業/消防施
    設工事業
 受注/電気設備工事
F祈設備工業
 許可/管工事業/水道施設工事
    業/消防施設工事業
 受注/給排水設備工事
GIリフォーム
 許可/内装仕上工事業
 受注/ユニットバス
H械屋
 許可/内装仕上工事業
 受注/畳

@、A、Bの業者は、構造上主要な部分と雨水の浸入防止に関する部分を施工するので、確実に該当する。
E、Fの業者は、主要な構造体や外壁を管や線が貫通することもあり得るので、かなりの確率で該当する。

他の4業者も、構造上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分に損傷を与える可能性は、ゼロとは言えない。
このような理由で、F邸では、建設業の許可を持っている業者をすべて該当させた。
しかし、この号が発売されるころ、該当業者の訂正を指摘され、保険加入の再申込みをしているかもしれない。


瑕疵担保責任保険
保険契約の申込書


F邸では、該当業者がすべき手続きを、設計事務所の担当者が行なわざるを得なかった。
設計事務所の担当者は、申込書に必要な事項を記入し、添付書類・図面・資料を整えた。
本来の申込人である該当業者は、印鑑を押すだけだった。

また、保険申込人の9業者は、事前に保険法人に届出を済ませておかなければならず、慣れない業者にはやはり面倒な手続きだった。
ここで、瑕疵担保責任保険の申込に添付した書類・資料・図面を列記する。

@保険契約申込書(連名用書式)
A設計内容確認シート
B請負契約書(9業者)
C確認済証もしくは工事届
D地盤調査報告書
E図面/付近見取図・配置図・平
 面図・立面図・矩形図・基礎伏
 図・床伏図

必要書類には、申込人の9業者では整えることのできないものも含まれていた。
例えば設計内容確認シート。地盤、基礎、屋根、天窓、バルコニー、外壁、外壁開口部まわりに関する記載があった。
これらの内容は、建築全体を請負った業者、あるいは設計事務所でなければ記載することができない。
F邸にはなかったが、地盤改良を行なった場合は、その報告書も添付しなければならない。


本法律の運用にあたっては
過大な負担とならないよう…


「本法律の運用にあたっては、中小事業者等に過大な負担とならないように配慮すること」
これは、瑕疵担保履行法に対する衆議院の付帯決議の一部である。
過大な負担の受け取り方は人それぞれに違うだろうが、これまでに示した例は、誰が見ても明らかに過大な負担である。

実際、専門業者ではとてもできない手続きを義務付け、その負担が設計事務所にまで及んでいるのだから、過大な負担を通り越している。
また、愛知県のS防水の例にみるように、9万円の工事を受注する際に約7万円の保険加入義務を課すのは、過大な負担どころか不条理な負担である。
受注の機会まで奪ってしまったのだから。
瑕疵担保履行法が一括請負の業者に適用される場合は簡明で、比較的手続きも簡単だ。

しかし、同じ法律でも分離発注に適用すると、ガラリと様相を変える。
複雑極まりないものに変貌し、まるで別の法律のように映る。


世の中を震撼させた
耐震偽装事件


ここで、瑕疵担保履行法成立の背景について考えてみる。
1990年代。国土交通省がまだ建設省だったころ、欠陥住宅に対する議論が本格化した。
シックハウス問題や「秋田杉の家」事件などが背景にあった。

1999年「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(略して「品確法」)が成立。
新築住宅の請負人と販売業者に対して、@構造上主要な部分とA雨水の侵入を防止する部分に関する瑕疵担保責任を10年間と定めた。
2005年11月、耐震偽装事件が発覚。
以後、連日連夜、マスコミはこの事件を報道した。

結局、マンション業者のヒューザーは倒産。
10年間の瑕疵担保責任は宙に浮き、住宅取得者は不安定な状況に置かれた。
2007年、「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」略して瑕疵担保履行法が成立。業者に供託金または保険の加入を義務付けた。

瑕疵担保履行法の目的は、品確法で定めた10年間の瑕疵担保責任を確実に履行するため、業者に事前の資力確保を義務付け、住宅取得者を守るところにある。


瑕疵担保履行法の
対象となる建物


瑕疵担保履行法の対象となる建物は新築住宅、または新築住宅を含む建物である。
店舗・工場・事務所など、住宅以外の建物は対象とならない。
ただし、主要な用途が住宅以外であっても、住宅を含む建物は対象となる。

また、たとえ住宅でも、新築でない場合、つまり、増築や改築の場合は対象とならない。
より詳しくは「新築」と「住宅」の言葉の定義を知っておくとわかりやすい。

「新築」とは、建築工事完了から1年以内の建物をいう。
ただし、1年以内であっても、人が住んだ建物は中古である。
中古住宅は瑕疵担保履行法の対象とならない。

「住宅」とは、人の居住の用に供する家屋または家屋の部分をいう。
したがって、戸建住宅、共同住宅、分譲住宅、賃貸住宅、民間住宅、公営住宅、公務員の官舎もすべて対象となる。

ホテルや旅館など、人を宿泊させる営業のための施設は住宅ではない。
また、老人福祉法に基づく特別養護老人ホーム等の施設は住宅に該当しないが、グループホームや老人向け賃貸住宅などは住宅に含まれる。


供託金か保険加入の
義務を負う業者


瑕疵担保履行法の対象となる業者は、供託金を積むか、国土交通大臣が指定した保険法人の保険に加入しなければならない。
これを、業者の資力確保措置という。
資力確保義務を負うのは、新築住宅を請負った建設業者、または新築住宅を売った宅建業者である。

ただし、新築住宅の建築主や購入者が宅建業者である場合は、資力確保の義務は生じない。
資力確保義務を負う「建設業者」と「宅建業者」の言葉の定義は次の通りである。

「建設業者」とは、建設業法に基づく建設業の許可を受けた業者である。
土木一式、建築一式、大工、左官など、全部で28種類ある。
このうち、構造耐力上主要な部分または雨水の侵入を防止する部分を施工する場合に、資力確保義務を負う。
また、建設業者が直に建築主と請負契約を交わす場合に資力確保義務が生じ、下請け業者として請負う場合には生じない。

「宅建業者」とは、宅地建物取引業法に基づく宅地建物取引業の免許を受けた業者である。
宅建業者が新築住宅を売る場合には、建設業者が請負うときのような複雑さは生じない。


品確法は請負人で
履行法は建設業者


品確法で定めた10年間の瑕疵担保責任は、新築住宅の「請負人」を対象とした。
それに対して瑕疵担保履行法で義務付けた資力確保措置は「建設業者」を対象とした。
しかも、直営工事や分離発注方式で契約する専門業者まで対象とした。

それで、複雑になった。複雑になったばかりでなく、不条理なことも生じた。
これまでの例で示した通りである。

品確法が対象とした「請負人」とは、新築住宅を請負ったすべての業者をいう。
建設業の許可があろうがなかろうが10年間の瑕疵担保責任を負うのである。
その瑕疵担保責任を確実に履行させる方法として、瑕疵担保履行法は「建設業者」に資力確保を義務付けた。

建設業界には、建設業の許可を受けた業者と受けていない業者が混在している。
しかも、許可を受けていない業者のほうが断然多いともいわれている。
では、その理由を探ってみるとしよう。


建設業法で定めた
軽微な工事


建設業法では、建設業の許可を受けなくても工事を請負うことのできる「軽微な工事」を定めている。
それは次の2通りである。

@土木や建築などを一式で請負う場合は、1500万円以下の工事。
もしくは延床面積150uを超えない木造住宅。

A土木や建築などの部分を請負う場合は、500万円以下の工事。
 
@について補足する。
一式で請負うとは、土木や建築の全体を請負うという意味である。
用途・構造・規模を問わず、誰でも1500万円以下の工事を請負うことができる。
また、延床面積150uを超えない木造住宅であれば、金額の上限なく請負うことができる。
工事費1億円の住宅も可能である。

延床面積150uを超えない木造住宅には、ほとんどの住宅が該当する。
「これが軽微?」という疑問もあるが、建設業法上では、建設業の許可がなくても請負うことができるのである。
Aについて補足する。
部分を請負うとは、下請けや分離発注の場合が想定できる。
戸建住宅の下請け工事を中心に請負う業者は、1件で500万円を超える受注はほとんどないので、建設業の許可を受けなくても特に支障ない。


該当したりしなかったり
とてもややこしいのだ!


延床面積149u(約45坪)の木造住宅を請負った大工の棟梁。
建設業の許可は持っていない。
品確法で定めた10年の瑕疵担保責任は生じているが、瑕疵担保履行法の資力確保義務は生じていない。

昔気質の大工の棟梁。近所の人から腕を見込まれ、別の新築住宅を依頼された。
「電気工事と水道工事、それにシステムキッチンも、わしが工事をするわけでもないし、うわ前をはねる気もないので、代金は直接業者に払ってもらいたい」
と、建築主に提案した。

すると、建設業の許可を持っていた電気工事業者に資力確保義務が生じて大慌て。
同じ業者の同じ仕事でも、棟梁から離れると該当し、棟梁の下なら該当しない。
とてもややこしいのである。

その棟梁。今度は親しい工務店から声がかかった。
「金物も釘も使わない昔の工法の家を受注した。できる大工がいなくて困ってるんだ。
棟梁、大工工事だけ請負ってくれないかな。金額は、600万円くらいだ」
「いいよ。と言いたいところだけど、家1棟まるごと請負うときは業法違反じゃないが、大工工事だけを請負うと業法違反になる場合がある。ややこしいんだ」


いろんなタイプの
分離発注方式


瑕疵担保履行法は、家1棟まるごと請負う業者にとっては、そんなに複雑な法律ではない。
建設業の許可を持っている業者に資力確保義務が生じ、大工の棟梁のように許可を持っていなければ資力確保義務は生じない。

ところが、分離発注方式を採用すると、たちまちややこしくなる。
ひとくちに分離発注方式といっても、いろんなタイプが存在する。

昔気質の棟梁がときどきやるように「わしがやらない工事は、直接支払ってくれ」という分離発注もある。
実際、昔の棟梁はこうやって家をつくった。
建築主が行なう直営方式も分離発注方式の一種である。
職人の技を廃れさせたくない、という動機で直営工事を行なう建築主もいる。

職人は、腕で勝負。
他の職人のうわ前をはねる気はないという棟梁。
いまの家づくりから失われつつある良い側面である。

その良さをさらに引き出そうと、設計事務所の建築士たちが取り組む、現代的な分離発注方式もある。
小さな設計事務所の建築士も、ある意味で設計職人なのだ。


品確法から始まった
緻密で遠大な構想


この2年間、建築関連の法律を丹念に調べ、国土交通省も取材した。
そして、思う。品確法から始まった一連の建築関連新法は、詳しく知れば知るほど、緻密で遠大な構想だ。

1990年代まで、当時の建設省は、欠陥住宅問題に対してあまり積極的ではなかった。
どちらかといえば、見て見ぬふりをしていたと思えなくもない。

それが、1990年代の後半から急に積極的で意欲的になった。
1996年、国会ではじめてシックハウス問題が取り上げられると、その2か月後には建設、通産、厚生、林野の4省庁が連動して研究会を組織した。
素早い対応も複数の省庁の連動も、かつてないことだった。
1999年、満を持すように提出された品確法案。
当時、欠陥住宅新法ともいわれた。ここから国土交通省の欠陥住宅問題に対する積極果敢な対策が始まった。

品確法から長期優良住宅へ。さらに建築士法の大改正と瑕疵担保履行法の制定。
指定保険法人、紛争処理機関、住宅性能評価機関などの周辺環境も整備された。
囲碁の布石のように、別々に見えたものが見事に関連付けられているのだ。


国土交通省の
壮大で大胆な試み


品確法で定めた10年間の瑕疵担保責任と性能表示。
法律の是非はともかく、建築業界の中で無風状態だった欠陥住宅問題に、風が吹いたのは事実である。
建材から放散される有害な化学物質を、何十年間も放置した問題を、一気に解決へと動かした。

品確法の成立で、業者の瑕疵担保責任をバックアップする検査・保証会社も生まれた。
新たな保険商品も開発され、保険加入数は限られていたが、義務付けへの貴重な試運転となった。

任意規定の性能表示制度を利用する業者はさらに限られていたが、各地に性能評価機関が生まれた。
2007年に成立した瑕疵担保履行法は、2年間の準備期間で段階的に環境を整えてから完全施行に至るという、国土交通省の壮大で大胆な試みである。

まず、国土交通大臣が業者の資力確保の受け皿となる保険法人を指定。
瑕疵担保履行法で義務付けた保険を扱う、まったく新しい保険法人が5社誕生した。
この5社で、年間100万戸近い新築住宅の現場検査を行ない、保険商品を販売し、保証するという遠大なスケールの法律だ。


小さな専門業者が
底辺で支えている


スケールの大きな話の後で、もう一度現実の小さな話に戻る。
10万円の小さな工事を、何とか受注しようと奮戦している中小建築業者。これが現実である。
住宅産業は、ハウスメーカーや工務店など、家1棟まるごと受注する業者に目がいきがちだが、現実は数十万社ともいわれる小さな専門業者が底辺で支えている。

これまで光が当たらなかった専門業者に、思わぬところから光が当たった。
瑕疵担保履行法という光である。下請け業者に甘んじることなく、自立した専門業者になれという励ましの光であればありがたいが、それにしては少々きつい光だ。あるいは試練の光か。

これだけの壮大なスケールで行なう瑕疵担保履行法だから、思わぬところに歪みが出てしまっても、ある程度は我慢しなければならないと思う。
法律を施行する前に隅々まで検討するにも限度があるからだ。

だけど、こんなに緻密で遠大な構想を実行できるのだから、法律の施行で苦しんでいる中小業者のことを知れば、きっと運用面で配慮するのも可能なはずだ。
そう信じている建築士の問題提起である。
PDF イエヒトVOL.9講座1
掲載者
関連HP イエヒト




『Index』から選択し、『Go!』をクリックして下さい。
オープンネット株式会社