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CCI 2009年7月号
  【第6回】 住宅の設計監理+CM 『見積り・業者選定業務/後半』

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『CM分離発注の実践現場から』
 〜建築士へのレポート/各地の事例を徹底取材〜

【第6回】
住宅の設計監理+CM『見積り・業者選定業務/後半』

取材・記事 山中省吾・武藤昌一・藤井旭

雑誌『イエヒト』編集部・特別取材班

■創建工房一級建築士事務所は、木造住宅の設計監理業務を約300万円で契約した。

■建物の規模は、延べ床面積99uの木造平屋建て、業務の内容は、設計監理の標準業務+CM分離発注業務である。

■同じ規模の住宅を告示第15号「新・設計監理業務報酬基準」で算定すると、547万円になった。(標準業務のみ。1時間当たりの直接人件費3,000円)

■告示の標準業務と創建工房一級建築士事務所の業務を比べると、設計業務に大きな違いは認められなかった。

■見積り・業者選定業務の前半を終えた段階で、告示の標準業務とは比較にならないほどの緻密で手間のかかる業務が見えてきた。CM分離発注業務の大きな特徴である。

■今号では、見積り・業者選定業務の後半部分を追ってみる。



E建築工事請負業者の選定

創建工房の黒土さんは、延べ床面積99uの木造平屋建て住宅を31の業種に分類し、業種ごとに見積り金額を比較した。変更や改善案を検討し、予算内に収まる目途が立つと業種ごとに契約業者を選定していった。

「解体工事」。3業者が見積りに参加した。最安値556,500円に対して最高値670,000円。最安値の水岡商事をヒアリングして、処分場や安全監理の方法を確認。工事請負業者のひとつとして選定した。

「仮設足場工事」。2業者が見積りに参加した。最安値105,000円に対して最高値173,617円。最安値を提示した井手建設興業をヒアリング。問題ないので工事請負業者のひとつとして選定した。

「鋼管杭工事」。3業者が見積りに参加した。最安値761,250円に対して最高値1,494,551円。約2倍もの金額。ちなみにもう1つの業者は903,000円。最安値の大誠産業をヒアリング。問題ないので工事請負業者のひとつとして選定した。

「基礎工事」。3業者が見積りに参加した。最安値1,329,704円に対して最高値1,681,292円。最安値の小西建設をヒアリング。問題ないので工事請負業者のひとつとして選定した。

黒土さんは、こうやって31業種を順次選定した。



F見積り結果の報告

黒土さんは、見積りに参加した58業者に書面で結果を報告した。

契約相手として選定された業者には契約会の案内を送った。同じ業者が複数の業種を受注するケースや、発注書で済ませる場合もあるので、作成した工事請負契約書は約20業者分である。

契約書はすべて黒土さんが作成した。契約会の当日、業者が持参したものは印鑑と請負金額に応じた印紙のみである。印鑑を持ち出すことのできない業者は契約書を一旦会社に持ち帰って押印し、後日提出した。

選定から漏れた業者には、参考として、選定された業者の見積り金額を基準にA〜Fの6段階の判定を付して送った。A:0〜5%の開き。B:5〜10%の開き。C:10〜20%の開き。D:20〜30%の開き。E:30%以上の開き。F:その他の理由。

見積りに参加した業者から「まるで勝負にならなかった。もう少し頑張ればよかった」など、自社の位置がよくわかると評判がよかった。



G工事請負契約書の作成

それぞれの業者の工事請負契約書は、本来、契約の当事者(建て主又は工事を請負う業者)が作成すべきものである。しかし、ふだん書式づくりに慣れていない専門業者に分離発注用の工事請負契約書や約款を作成してもらっても、説明の手間や手直しを考えれば、自ら作成する方が早い。また、間違いもない。

とは言っても、見積り結果の報告書や工事請負契約書など、分離発注の場合は関係する業者の数が多いので、やはり大変な作業である。そこで、黒土さんは、書類づくりのかなりの部分を自動作成するソフトを活用した。オープンネットが会員に無償で提供している「業務支援ソフト」である。



H工程表と支払予定表の作成

分離発注の場合は、工事の進捗状況の把握や調整を設計監理者が行う。そしてまた、各業者への工事代金も工事の進捗に合わせて支払われる。

そこで黒土さんは、工事の工程表と各業者への支払い予定表を作成した。まず大まかな工程表をつくり、細部はそれぞれの業者に訊いた上で調整した。

これまで大まかな計画を立てる上での工程表なら作ったことはあるが、工事を進める工程表はこれが初めてだった。このときも、オープンネットの資料と建築士仲間の資料が大いに参考になった。



I工事請負契約の立会

CM分離発注における工事請負契約会は、重要な行事の一つである。家づくりに関わるすべての業者が一堂に会し、建て主を交えてコミュニケーションを図るよい機会。「私が大工の何々です。よろしくお願いします」と、一人ずつ挨拶を交わして建て主と調印する。

CM分離発注は、「価格が見える」点を大きな特長として挙げられることが多いが、この契約会のように「顔が見える」点も大きな特徴の一つである。

やはり職人気質というものは、「どうだ! この壁はわしが塗った!」と、誰かに見てもらいたいようで、実際、CM分離発注のように、建て主に見てもらう場面をつくると、職人は一生懸命になる。

また、家づくりに建て主が深く関わるほど、それぞれの職人との結びつきが濃くなり、完成後も何かと協力してもらえる。

黒土さんは、この契約会の終了後、引き続いて第1回目の工程会議を行った。いよいよ工事の開始である。



見積り・業者選定業務は
その他の標準業務に含まれる

国交省告示第15号「新・設計監理業務報酬基準」に記載してある標準業務は、1「設計に関する標準業務」と2「工事監理に関する標準業務及びその他の標準業務」に大別されている。

そして、「その他の標準業務」に(1)「請負代金内訳書の検討及び報告」という項目があり、業務内容として以下の説明が付されている。

「工事施工者から提出される請負代金内訳書の適否を合理的な方法により検討し、建築主に報告する」

まさに、これまで見てきた創建工房の「見積り・業者選定業務」@〜Iが、上記(1)「請負代金内訳書の検討及び報告」に該当する。

CM分離発注における「見積り・業者選定業務」は、「設計業務」や「監理業務」に匹敵するほど重要な業務である。そこに魅力を感じて依頼する建て主も多い。



思いがけないところから発生した
標準業務以外の業務

住宅瑕疵担保履行法の施行で、新たに標準業務以外の業務が発生した。それは、法律で義務付けられた保険加入や現場検査などの手続きである。

CM分離発注の場合は、建て主と工事請負契約を交わした業者の中の、資力確保の義務を負う業者が連名で保険加入を申し込む。資力確保の義務を負う業者は、@建設業の許可を取得し、A品確法で定めた10年間の瑕疵担保責任を負う部分の工事に関係する業者である。

文章にすれば簡単だが、さて、どの業者が該当するか? 実際は結構ややこしい。

@の条件はすぐわかる。YESまたはNO。

Aの条件も明らかに該当する業者がある。基礎、構造躯体、屋根、外壁を請負った業者である。問題は、Aに該当する「かもしれない」業者である。

たとえば電気設備工事を請負った業者。外壁に取付けた換気扇の回りから「雨水が侵入する」可能性もある。また、給排水設備工事を請負った業者。管を通すために、梁の一部を欠く場合も無いとはいえない。

このように考えると、建設業者に課せられた法律だから、業者で話合って該当する業者を割出し、幹事会社を決め、保険加入の手続きや現場検査の手続きを進めろと言っても現実は無理である。

自ずと、設計監理者が行わざるを得ない。思わぬところから発生した標準業務以外の業務だ。しかもこの場合、本来設計監理者に義務付けられた手続きではないので、単なるお手伝いであり、おせっかいの業務である。



分離発注に適用させると
不合理が生じる

本誌4月号で、以下のように書いた。

「家1棟分の加入料を受取っておきながら、保険の適用範囲を限定するなんて不合理。もしそうなら行政訴訟…」なんて噂し合っているころ、「保証せざるを得ない」と回答があった。

これは保険法人からの回答である。しかし、その回答はやがて覆された。「やはり、該当する業者の工事部分しか保証の対象とならない」と。

極端な例を挙げれば、以下のようなケースも考えられる。

基礎も躯体も屋根も外壁も、建設業の許可を持っていない業者が請負った。電気設備工事を請負った業者だけが建設業の許可を持っていた。保険加入義務に該当するのはこの1業者だけ。換気扇の回りから雨水が侵入する可能性があるという理由で保険加入義務に該当した。

保険の加入料は、家1棟分である。しかし、基礎も躯体も屋根も外壁も保証の対象とならない。とても不合理である。

さらに、保険加入の条件として義務付けられた基礎の配筋検査の手続きを、基礎工事と何の関係もない電気設備業者が行なわなければならない。これも不合理である。

そもそも、保証されない基礎工事に、保証のリスクを減らすための配筋検査がなぜ必要なのだろうか。矛盾だらけだ。



中小の事業者等に
過大な負担とならない配慮

瑕疵担保履行法は、けっして複雑な法律ではない。品確法で定めた10年間の瑕疵担保責任を確実に業者に履行させ、住宅取得者を守るという趣旨でつくった法律である。

具体的な方法として二つの選択肢を設けた。一つは供託金、もう一つは保険加入。この二つのうちいずれかの方法で、業者に瑕疵担保責任を履行するための資力を確保させておくのである。

家1棟丸ごと請負った業者は、瑕疵担保履行法の対象となるかならないかを判断すればいい。建設業の許可を持っていれば対象となり、個人大工のように許可を持っていなければ対象とならない。

また、どの下請け業者が対象となるかなどと、通常は考える必要がない。元請け業者が対象となれば、下請け業者に建設業の許可があろうがなかろうが、建物のすべての部分が保証の対象となる。

けっして複雑な法律ではない。唯一、分離発注のケースだけが複雑になる。しかも、図式で解説しても理解できないほど極めて複雑になる。

それは、一つの建物の工事に、資力確保義務の対象となる業者と対象とならない業者が混在するからである。その結果、保証の対象となる部分と対象とならない部分が発生するからである。

瑕疵担保履行法ができたとき、以下の付帯決議が衆議院で行なわれた。

「本法律の運用にあたっては、中小事業者等に過大な負担とならないように配慮すること」

現実は、過大な負担となっている。連名による手続き、加入料、そして保証の対象範囲。過大な負担どころか、不合理で不条理な負担である。

分離発注の場合、以下のような配慮が必要である。部分を請負う業者は該当しない。少なくとも、建設業法で定めた「軽微な工事」に該当する請負は対象外としてもいいのではないか。

あるいは、一つの業者でも該当すれば、分離発注で請負ったすべての業者が連名で保険に加入できる。もちろん、すべての請負工事の部分が保証の対象となる。

このように、運用面で配慮すべきである。

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掲載者 イエヒト編集室
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