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CCI 2009年4月号
  【第3回】 『専門業者は瑕疵担保履行法を 理解し対応できるだろうか?』

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『CM分離発注の実践現場から』
 〜建築士へのレポート/各地の事例を徹底取材〜

【第3回】
『専門業者は瑕疵担保履行法を理解し対応できるだろうか?』

取材・記事 山中省吾・武藤昌一・藤井旭

雑誌『イエヒト』編集部・特別取材班

■分離発注では、品確法で定めた基本構造部分の一部を請負った業者の中で、建設業の許可を取得している業者が保険加入の義務に該当する。

■分離発注では、履行法の保険加入義務に該当しない業者の事故も保険の対象となる。

■分離発注で契約した業者の中に保険加入義務の該当業者がいなければ、履行法の対象外となる。

■履行法の解釈と事務手続きの方法に突っ込んでいくと、想定できない問題が多くある。それだけ複雑ということだ。前号に続き、国交省と指定保険法人の取材からレポートする。

過去のCM分離発注事例を履行法に当てはめ、想定される問題点を洗い出してみた。


一転して分離発注も瑕疵担保履行法の対象に

「分離発注も履行法の対象となるか?」と、国交省に訊ねた後で疑問が湧いた。「そもそも何をもって分離発注というのだろうか?」

ほんの一部の工事、たとえばカーテンだけを分離しても分離発注というのだろうか? 分離発注が履行法の対象外だとすれば、一部の工事を切り離した履行法逃れが発生するかもしれない…。

こう考えたのには理由がある。実はこの段階で取材班は「分離発注は履行法の対象外」と考えて疑わなかった。なぜなら、1999年に品確法(10年間の瑕疵責任)が成立したとき、国交省は「分離発注は対象外」と答えていたからである。

実際、住宅保証機構等の検査・保証機関に、当時分離発注に対応した瑕疵保険はなく、どうしても利用したい場合は分離発注を一括請負に見立てて加入しなければならなかった。

そこで当然、履行法も対象外だろうと考えた。ところが一転して「分離発注も対象になる」と、国交省の回答。

履行法が分離発注に適用されるとどうなるか。 さっそく保険法人を取材した。しかし、その場で得られた回答は少なかった。ほとんどが保険法人にとっても想定外の質問だったのだろう。



何をもって分離発注と定義するか


履行法は、品確法で定めた「10年間の瑕疵責任」を確実に実行するためにつくった法律である。

したがって、カーテンだけを分離発注しても履行法の適用を受ける分離発注とはならない。品確法で定めた「基本構造部分」を請負う業者を分離した場合が分離発注であろうことは想像できた。

品確法で定めた基本構造部分とは次の2点である。

@構造耐力上主要な部分―――基礎、基礎杭、壁、柱、小屋組、土台、斜材(筋交、方づえ、火打等)、床版、屋根版、横架材(梁、桁等)で、住宅の自重、積載荷重、積雪、風圧、土圧、水圧、地震その他の衝撃を支える部分。

A雨水の侵入を防止する部分―――屋根又は外壁。屋根又は外壁の開口部に設ける戸、枠、その他の建具。雨水を排除するために設ける排水管のうち、屋根もしくは外壁の内部又は屋内にある部分。(屋外に露出した樋は対象外という意味)

では、上記の2点に該当する部分を請負った業者を分離する場合に、履行法の適用を受ける分離発注となるのか。いや、そうではない。もう一つややこしい要素が加わった。

品確法では「請負人」を対象としたが、履行法では「建設業者」を対象とした。言葉遊びではない。建設工事を請負った者をすべて「請負人」というのに対して、建設業の許可を取得した者を「建設業者」という。この違いが大きいのだ!

建設業者=建設業の許可を取得した業者。 この条件が加わることで、ややこしくなった。

つまり、履行法の適用を受ける分離発注を正確に表現するなら、「建設業の許可を取得した業者が請負う品確法で定める基本構造部分の一部を分離した場合」となる。あ、あ、頭が……。



該当する業者は
連名で保険に加入しなければならない


分離発注に履行法が適用されたら、工事の一部を請負った業者のどこかが保険に加入すればいい。こう考えていたが、詳しく調べるとそう簡単なものではなかった。

そこで取材班は、これまでの分離発注事例を30棟ほどピックアップし、保険加入義務に該当する業者を割り出してみた。

一般的な木造住宅の分離発注では、15〜25の業者に分割して発注するケースが多く、そのうち2〜6の業者が保険加入義務業者に該当した。

さて、該当する業者がわかったとして、具体的にどの業者がどのように保険に加入するのか。前号で紹介した事例では、請負契約を交わした16業者の中で3業者が履行法の保険加入義務に該当した。

結論を先に示すなら、この3業者は、連名で履行法の保険に加入しなければならない。3業者のいずれも、保険契約者であり被保険者である。そして、この3業者の中から「事務幹事会社」を選出し、その業者が保険加入金を支払い、事故等が起きたときの事務手続きを行う。

さて、ここでいくつか疑問が生じる。たとえば、3業者以外の事故はどのような扱いになるか、などである。以下、保険法人の考え方を記す。

投げかけた疑問点を保険法人が単独で結論を出すのは難しかったようで、実際は保険法人と国交省を交えた定期的な協議会に疑問点を持ち寄り、検討を重ねたて結論を導いたようだ。

したがって、質問の項目によって、保険法人の見解が2転3転と揺れ動いたものもある。



疑問1
事務幹事会社だけが保険加入金を負担するのは
不公平ではないか?


手続き上は事務幹事会社の口座から保険加入金が引き落とされる。その費用を事務幹事会社がすべて負担するのは一向に構わない。しかし、それでは不公平感が伴い、納得しがたいであろう。

そこで、連名で名を連ねた保険契約者が費用を分担するのも、また、保険加入義務のない他の業者から応分に費用を集めるのも構わないとされた。

業者間で話し合い納得すれば、どのようなルールで分担しても構わないというのであるが、CM分離発注の場合、業者間の協議で決めるには無理がある。実際はCMrが中に入って業者間の意見を調整し、ルールを決めることになるだろう。

ちなみに、履行法の保険加入費用を業者が負担しても、結局は建築主のふところから出るのだから、すべて建築主に負担してもらえばいい、という考え方もある。

それに対して保険法人の考え(あるいは国交省の考えかもしれないが)は、NO!であった。あくまでも業者が加入すべきものであり、建築主に費用負担を求めるのは筋違い。見積書に保険加入料と記載することも控えるべき、ということだった。

しかしその後、業者が建築主から履行法の保険料として集金してもよい、というところまで考え方は柔軟に変化した。



疑問2
保険加入に該当する業者(連名で申し込んだ保険契約者)以外の
業者が引き起こした瑕疵事故も、保険の対象となるか?


これも当初はNO!だった。しかし、「家1棟分の加入料を受け取っておきながら、保険の適用範囲を限定するなんて不合理。もしそうなら行政訴訟…」なんて噂し合っているころ、「保証せざるを得ない」と回答があった。

しかしこの疑問、具体例に置き換えると手続き上はかなりややこしく、業者の費用負担の考え方にも大きく影響する。

たとえば、事例の3業者の中には、基礎工事業者が含まれていない。なぜなら、建設業の許可を取得していないからである。

仮に、基礎に瑕疵が発生し、履行法の保険が適用されるとしよう。その場合、保険加入の義務がなく保険契約者にも名を連ねることのできない基礎工事業者に、保険金を支払うことができるのだろうか?

手続きを行うことができるのは事務幹事会社だろうし、保険金が支払われるのも事務幹事会社に対してだろう。(保険加入義務に該当しない業者を被保険者扱いにできるなら別である)

またJVならともかく、分離発注において、利害関係のない他業者の事故に対して、事務幹事会社とはいえ手続きをするだろうか。よしんば手続きをしたとして、受け取った保険金がちゃんと基礎工事業者に渡るだろうか。

事務手続き上のルールをしっかりと定めておかなければ、いざ事故が起きたとき混乱しそうだ。



疑問3
事務幹事会社が倒産したら?


一括請負の場合、業者が倒産し瑕疵事故が発生したら、建築主が業者に代わって保険金を請求することができる。

分離発注の場合はどうだろう。事務幹事会社が倒産すると、連名で加入した他の業者に事務手続きが引き継がれる。引き継いだ業者が倒産すると次の業者に引き継がれ、連名で加入したすべての業者が倒産したときに、建築主に請求権が移る。

理論上はこのようになるのであるが、請求権が次々と移っていった場合、実際に業者の事務手続きが機能するかどうかは、わからない。



疑問4
建設業者=建設業の許可を取得した業者に限定したのはなぜだろうか?


最大の疑問である。品確法は請負人に対して10年間の瑕疵担保責任を義務付けた。建設業の許可を取得していなくても瑕疵担保責任を負う。

対して履行法は、建設業の許可を取得している業者に保険加入もしくは供託金を義務付けた。

それによって、建設業の許可を持たない大工が150uに満たない木造住宅を請負ったとき、履行法の保険加入義務を負わない珍現象が生じた。

分離発注の場合、品確法で定めた基本構造部の一部を請負っても、建設業の許可を持たない業者は保険加入の義務を負わない。

そこで、保険加入義務に該当しない業者の瑕疵事故に保険が適用されるか、などとおかしな議論が発生する。しかも、どの業者が保険加入の義務を負うか、表に落としてチェックしなければ判定できないほどややこしくなった。

履行法を成立させた目的は、住宅取得者の保護と品質の確保である。1999年、欠陥住宅新法ともいわれた品確法に淵源があり、耐震偽装事件をきかっけに履行法が成立した。

住宅取得者の保護を目的に業者の資力を確保するのであれば、品確法で定めたように、建設業の許可を得ていようがいまいが、すべての請負人を対象とすべきではなかろうか。

この疑問だけは、いくら考えても解けない。

今年の10月1日以降の引き渡し物件から適用される履行法。この号が届く頃に着工する新築住宅は、そろそろ対象となっているだろう。

検査員の確保、現場検査の方法、瑕疵が発生したときの対応など、動きだすとまだまだいろんな問題が出てきそうだ。

住宅取得者の保護と品質の向上。これまで実質的に放置していた欠陥住宅に対し、国交省は思い切って手を付けたのである。

目的さえ踏み外さなければ、世の中に役に立つ方向に十分機能する法律だ。そうなることを願ってペンを置く。



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掲載者 イエヒト編集室
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