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続 建築革命宣言!『思いを形にする』―くらしの工房での住宅設計への取り組み@
  「CCI」 2007 8月号 オープンシステムでの家づくりには、関わる全ての人にやりがいを感じてもらえるか否かが、建物の品質や住み心地に影響する/くらしの工房

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『続 建築革命宣言!』
 〜オープンシステム/ピュアCMに挑む建築士たち〜


『思いを形にする』
―くらしの工房での住宅設計への取り組み@


オープンシステムでの家づくりには、関わる全ての人にやりがいを感じてもらえるか否かが、
建物の品質や住み心地に影響する。





寄稿
くらしの工房
田中 清 氏


●序文



くらしの工房が事務所を構える大阪では、現在13社の設計事務所がオープンシステムでの建設方式に取り組んでいます。

大阪地区会員にはオープンシステム立上げ期から活躍している事務所が複数社存在し、業者BANKや各種イベントを全国に先駆けて立ち上げたり、昨年はオープンシステムの会員事務所が中心になって、CM方式に取り組む別団体を結成するなど、全国的に見てもオープンシステムが最も成熟された地域といえるのかもしれません。

諸先輩方を差し置いて、このコーナーに寄稿させていただくことは、僭越ではあるのですが、大阪地区での活動状況も含め、僕自身が感じていること、これから進もうとしている事柄など、書いていこうと考えていますので、しばらくの間お付き合いしていただけると幸いです。


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●オープンシステムとの出会い



2001年の春にオープンシステムの会員となり、9割以上の業務をオープンシステムで行っています。

普通の住宅の設計に、専業の設計事務所として携わっていきたい。僕がオープンシステムの会員となった一番の理由です。オープンネット(株)代表の山中省吾氏が書かれた、「価格の見える家づくり」に書店でたまたま出会い、読み終えると同時に入会希望の申し入れをしたと記憶しています。

入会後6年を経て、オープンシステムでの実績がやっと30棟を越えたところで、事務所経営的には採算ベースぎりぎりの状況ではあるのですが、同システムを事務所として吸収消化するには、丁度良かったのかもしれません。

全国的に見て、オープンシステムで建てられた建物の建設累計が2000棟を越えた今でも、残念ながらこの建設方式は、まだまだ一般的な建設方式ではありません。この理由は、このシステムの特殊性が敬遠されているのではなく、継続化して積極的に告知していく術が無かったことに起因しているのだと思います。

ただここで注意したいのは、一般的でない建設方式ということが、単に量的に少ないということであり、特殊な方式ではないという理解が必要ということです。

・専業設計事務所の建築士が住宅を設計する
・工事に参加したい職人による自由競争の原理
・施主から実際に施工する職人への直接発注、直接支払い
・建材、住設資材を自由に選ぶ

等々、オープンシステムで行われていることは、普通のことを当たり前にやっているだけのことなのです。
この7月には季刊誌「イエヒト」がオープンネット(株)から出版され、継続的にオープンシステムに関する情報発信がなされるので、今後の発展が非常に楽しみなところであります。


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●『くらしをデザインする』住宅設計に対する取り組み


建築家が世に出る手段として、比較的受注しやすい住宅建築で、独自の作風を確立し、積極的に建築雑誌に掲載して世の中での認知度を向上させるというというのが、一般的なスタイルだと思います。

この場合、雑誌に掲載さるかどうかが、次の仕事獲得にかかわる重要事項になることなり、ともすると施主の要望如何にかかわらず、雑誌に取り上げられやすい(編集者が望む)建物デザインを目指すことにもつながりかねません。

建築家が設計した住宅=奇抜な家というイメージが、一般消費者の意識の中に植えつけられる一因にもなっているのではないでしょうか。

建築家の職能としては本来、施主が望む空間を提供することが目的であり、それを実現する手段としてデザインが存在するのであって、住宅の場合、住まわれる家族を幸せにする空間をつくるというのが究極の目的であるはずです。


インターネットによる自由な情報発信、そしてオープンシステム採用による建設コスト削減で、住宅を設計するということが、専業の設計事務所にとってより身近になった今、デザインを目的にするのではなく、幸せにくらしていただく為の手法として捉えていきたいと考えています。

くらしの工房では、住宅作品としての作風を持たないことで、タイプの異なる施主さんと出会うことが出来、それらの方々が望む空間を提供することに徹しています。この作業は、施主が持つ問題点は何かを、スケッチや模型を使って少しずつ聞き出していき、それを施主と共に一つずつ解決していきながら、図面化していくという、非常に手間隙のかかることなのですが、こうすることで施主の満足度は上がり、設計者としてもプロジェクトごとに重要課題が変わるので、緊張感を維持しながら取り組むことが出ます。

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●新しい建築技術者の育成


僕は、学校を卒業して就職する際、大手企業の数ある歯車の一つとして身をおくのではなく、小さくとも大きなやりがいを感じることができる設計事務所を、就職先として選びました。

独立するまでの14年間、二つの設計事務所で実務経験をつみ、建築技術者として育てていただいたことに対して、諸先輩方に強いご恩を感じるところであります。そして、僕が教えていただいたこと、経験させていただいたことを、後進のスタッフ達に伝えていくことは、建築技術者としての義務だと思っています。

オープンシステムに取り組んだ当初からスタッフを雇い入れ、スタッフと共に苦労しながら業務を進めており、これからもより多くの若い人材に、建築の楽しさを伝えていければと思うところです。

建設工事を遂行する上での、さまざまなリスクを一手に引き受けてくれるゼネコンの存在が無いオープンシステムは、施主、設計者、専門工事会社の三者が各々のリスクを認識し、責任を全うすることで、初めて成り立つことのできる建設システムです。

とりわけこの三者の中でも、ゼネコン依存度の高かった設計者の意識改革が最も必要で、オープンシステムでの設計者は、新しい職能と言っても良いのかもしれません。

くらしの工房の過去の経験でも、1000万円超える予算オーバーの減額調整、近隣住民の方への工事説明、工事途中での業者倒産への対応等々、通常の設計事務所ではありえない問題の数々を、スタッフと共に解決してきたことは、今までの設計事務所では育たない、新しいタイプの建築技術者が育ってきていると実感しています。

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●満足から感動へ


くらしの工房での名物になりつつある行事に、工事期間中の現場で開催する、上棟&慰労パーティがあります。これは、屋根、外壁の工事がある程度進み、雨露がしのげる状態になった工事現場で、施主、設計者、専門工事会社の三者が、施主さんが用意した料理をあてに、酒を酌み交わすというパーティです。

これは、形式的になった本来の上棟式を、オープンシステム的に意味のある集まりにしようとするのが狙いで、この時点で工事が完了している基礎工事業者から、最終工程の洗い工事業者までの全てのプロジェクトメンバーに参加要請し、料理と酒は施主さんに用意していただくかわりに、上棟時のご祝儀はしていただかないという暗黙の了解のもとで開催されます。
 
このパーティを開催することで、施主さんと専門工事業者の意識的な距離が縮まり、その後の現場の雰囲気が変わるのが体感できます。

僕自身、なぜ設計の仕事をしているのか? 
なぜ住宅にこだわっているのか? 
なぜオープンシステムなのか? 

自分自身に問いかけてみると、やりがいを感じるからという答えに行き着きます。
このやりがい、僕が頑張ると、施主のSさんが喜ぶ顔が思い描ける、また職人のTさんが真剣なまなざしになるといった、個人対個人のかかわりの中に起因しているものだと思います。

オープンシステムでの家づくりにおいても、そのプロジェクトにかかわる全ての個人に、やりがいを感じてもらえるか否かが、出来上がってくる建物の品質であったり、完成後の住み心地にまでも、少なからず影響してくる気がしています。

オープンシステムでの建設工事経験が30棟を越えた今、プロジェクトを遂行していくためだけなら、各専門工事会社間の施工範囲や、工程調整、工事代金の支払チェック等、かなり細かくビジネスライクに業務を進めていけば、問題なく建設が行われ、竣工引渡しができます。

ただ過去のプロジェクトを振り返ってみて、家づくりを通して感動しましたと言ってくれた数人の施主さんの言葉が、僕の頭に残っており、感動できる家づくりを全ての施主さんに感じてもらえないかと、その仕組みづくりが今後の課題だと思っています。

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