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建築革命宣言!価格の見えるグッドデザイン(3)
「CCI」 2006年7月号 OS#02「エコ・キューブ#03」/(株)アトリエ・ラッツ 代表取締役 古後 信二
続 『建築革命宣言!』 〜オープンシステム/ピュアCMに挑む建築士たち〜
価格の見えるグッドデザイン
第3回 OS#02「エコ・キューブ#03」
寄稿
株式会社アトリエ・ラッツ 一級建築士事務所
代表取締役・最高経営責任者
古後 信二 氏
●エコ・キューブ#03
「エコ・キューブ」シリーズは我々が半規格型住宅として開発し、2003年度のグッドデザインアワードに輝いたシステムである。4間の正方形平面を持つ、総2階のキューブ形状。伝統的田の字プランともいえる。外張断熱などのパッシブデザイン手法を駆使し、健康に配慮した内装材を用いている。立体的ワンルームといったつくりであり、オープンな家族関係を構築しやすい。
今回ご紹介するのは、その第3弾。福岡市に建設された専用住宅である。2階に浴室(ハーフユニットバス)を設けて、内部の間仕切りを最小限にした開放的なプラン。
1階床を土間床のタイル貼りとし、太陽熱のダイレクトゲインと蓄熱を狙っている。サスティナブルへの挑戦といえよう。
●クライアントとの出会い
某建築プロデュース機関を経由してクライアントと出会った。場所は福岡。初めての県外のクライアントである。
我々のエコキューブに一目ぼれしていただき、さらに、その性能やコストパフォーマンスにおいて、確信を持っていただいた。建築家と施主との関係性は恋愛に例えられる事が多い。今回は遠距離恋愛が成立したといえよう。
建設前の住所が宗像大社そばであり、建設地は香椎宮の近隣であった。定期的に宗像までおもむき、設計打合せを重ねて行った。実施設計中に無事に御出産をされたりと、クライアントも大きな人生の節目に遭遇していた期間でもあった。
●一括発注からオープンシステムへ
プロデュース機関に登録している工務店のうち、3社を紹介してもらい見積もりスタートである。登録工務店の施工が絶対条件ではない。大分の実績データからいえば、1500万程度の本体工事費でまとまるはずだと概算できていた。ところが、見積り結果をみれば、3社とも2000万前後という結果であった。我々との実績のない工務店。我々の知名度もない。最初においては警戒されて安全度を見るのも理解できた。そこで、もっとも低値を提示した工務店にアポイント。これから、我々と一緒にVEなり、仕様調整しながら、1500万近辺までコストダウンしていく意思があるかを確認した。しぶしぶながらも、テーブルに乗ってくれるのではないかという甘い期待もあった。ところが、反応は厳しかった。
要約すれば、ローコスト物件はうまみがない。という結論である。絶対に無理とまでいわれた。大分で充分可能なコストである。こちらも無理難題をけしかけているつもりもない。途方にくれる。これまでの我々であれば、再度、別の数社に見積り参加のお願いをし、さらに、妥協ポイントを増やしたりという手立てしかなかった。
しかし、オープンシステム第1号の実績がある。
「そうですか。残念ですが御縁がなかったという事で!」
私の電話口での口調は淡々としたものであった。
電話を切るなり、オープンシステムへの転換を即座にスタートさせたのである。クライアントにも気持ちよく理解して頂いた。
●オープンシステム奮闘スタート
とはいえ、福岡での専門工事業者さんとの付き合いはない。我々単独ではあきらめていてもおかしくない。ところが、オープンシステムの底力は、そのネットワークにある。福岡県でオープンシステムを実践する先駆者は10数社あり、福岡県においては充実した業者バンクがあり、実績値も多い。さっそく、先駆者達に御協力のお願いをした。当日のうちに、各専門業者さん3社程度、トータルで40社くらいの専門業者さんのリストができあがったのである。さっそく、しぼりこみを開始し、見積り作業に取り掛かって頂いた。
結果的に、本体工事費においては、予定通りの金額に納まったのである。特筆すべき事は、仕様の調整はほとんどおこなっていないという点である。
●自然換気
大分において、我々は24時間機械換気に頼らず、自然換気方式での実績を多くつくってきた。告示273号を適用し、床面積あたりの隙間を設ける手法である。
大分市の建築指導課においては認めていただいていたのであったが、福岡市においては前例がないという事で却下されそうになった。国交省の資料などを用いて、根気よく説明させていただき、ようやく納得していただいた。確認申請はようやく許可されたのである。
●地鎮祭
着工条件がそろい、地鎮祭を迎えた。早めに現地入りし、雑草などの処理を我々で行う。施主家族をむかえ、手作りの地鎮祭である。施主自ら香椎宮の神官さんの送迎を行った。縄張りをおこない、祭壇などのセッティングも我々が行う。近隣挨拶も我々が中心となって執り行った。
●ジオクロス
地盤が弱く、鋼管杭や地盤改良の必要性があったが、今回、我々としては初めて住宅地盤対策工法「ジオクロス」を採用した。引張強度、引裂強度が強く、荷重を分散する耐久性の高いシートであるため、住宅地盤補強シートとして最適な工法の一つである。
●資材調達・運搬
今回、建材卸の支店が現場近隣にあったおかげで、いろいろと助かった場面が多かった。また、サニートラックを導入していたため、フットワークもよかった。完成直後の残材を積んで高速道路を走り大分に向かった時は大きな達成感もあった。
●オープンハウス当日、福岡西方沖地震発生
引渡し前の1日間、施主のご好意により、オープンハウスを開催させていただく。早朝から大分を出発し、段取り。遠隔地という事もあり、午前中はまばらな入場者であった。突如地震がおきる。震度6弱であった。
私の人生のなかでも体感した最高の震度であった。
揺れがおさまり、直ちに建物に異常がないかをチェックする。珪藻土左官仕上げであるので、クラックがあってもおかしくない。ところが、奇跡的にどこにもクラックはなかった。建具の開閉も異常ない。近所では、瓦がくずれてしまった住宅もあった。エコキューブは正方形平面というバランスの良い形状であり、合板による耐力壁、剛床仕様としている。天然の耐震試験がおこなわれ、合格点を頂いたのではないか。いまではそう解釈している。
●基礎工事の分離発注
混構造であったため、一般的な基礎工事業者では難易度があったため、また、分離の度合いを高めたかった事もあり、土工事・コンクリート工事、型枠工事、鉄筋工事の3社に分離した。
逆ベタ基礎形式であるため、埋設配管と立ち上がり位置の精度が求められた。
また、一発仕上げのため、スラブ専門の左官職人。
●総括
12月末から3月末までの約4ヶ月の工期。工務店にとっても標準的な工期といえる。福岡の先駆者達からの専門業者さんのご紹介、御助言、アドバイスがあったからこそ、実現できた。ネットワークのありがたさを痛感している。さらに、担当である伊藤憲吾にとって、初めてのオープンシステム。奮闘してもらった。福岡までの通いの日々はつらかっただろう。
我々のオープンシステム第2号は、第1号に引き続き、多数の受賞を得た。メディア掲載も多く、各種出展も多数であった。オープンシステムとは建築の「見える化」である。第1号の経験を踏まえ、「見える化」が進行し、改善をおこなった部分も多かった第2号であった。
●商業デザインへの突入
オープンシステム第2号の工事期間中から、我々にとって始めての商業デザイン物件が進行していた。
我々の処女作の完成時に出会ったクライアントである。シェフとして独立開業を夢見ていたが、当時は資金面などから断念、3年後に再チャレンジするという事となり、その間は音信不通状態であった。突然の連絡に我々も興奮した。予算はあいかわらず厳しいが、魅力ある地中海レストランの内装の依頼をしていただいた。
すかさず、オープンシステムで取り組む決意をした。
内装工事の分離発注は新築にくらべて、専門工事業者さんの数も少ない。が、短工期かつ隣接店舗への配慮や、工事車両の置き場所など未知の部分も多い。不安もあったが、クライアントの熱い気持ちに突き動かされるように幕があいたのであった。(続く)
●データ
■#006 ECO-CUBE#03
所在地/福岡県福岡市香椎駅東
主要用途/専用住宅
家族構成/夫婦、子供1人
■設計
設計・監理/株式会社アトリエ・ラッツ一級建築士事務所
プロデュース/プロトハウス
■施工
オープンシステム(分離発注方式)
CM/株式会社アトリエ・ラッツ一級建築士事務所CM部
地盤調査/キューキ工業
仮設足場/ワイズヨシハラ
特殊地業工事/環境コンサルタント
基礎・鉄筋・型枠工事/福岡ハウスハーブ
(有)フロンティア建工
左官・塗装工事/山口建装
タイル・左官工事/早田装建
大工工事/吉田工務店
屋根・外壁・板金工事/松浦板金
金属製建具工事/九州新日軽
木製建具・家具工事/高木製作所
鉄骨工事/丸美工業
建材卸/樺シ方建材
プレカット/叶V宮
電気設備工事/矢野電気工事
機械設備工事/叶V設備
美装工事/橋本建装
家具/無印良品
■構造・構法
構造/在来木造
特殊基礎/ジオクロス工法
基礎/ベタ基礎
■規模
階数/地上2階
最高の高さ/5.85m
敷地面積/130.32u(39.42坪)
建築面積/52.99u(建ペイ率40.66%許容%)
延床面積/95.22u(容積率72.75%許容%)
(容積率対象延床面積/95.22u)
1階/51.75u(15.65坪)
2階/43.47u(13.14坪)
施工床面積/106.61u(32.24坪)
■工程
設計期間/2004年3月〜2004年12月
工事期間/2004年12月〜2004年3月
■敷地条件
用途地域等/第1種中高層住居専用地域
道路幅員/4m
■外部仕上
屋根/カラーガルバリウム鋼板縦ハゼ葺
外壁/カラーガルバリウム鋼板大波横張
開口部/アルミサッシュ(新日軽)
外構/砂利敷き
■内部仕上
1階
床/300角磁器質タイル貼
壁/石膏ボードt=12.5+珪藻土左官仕上
天井/石膏ボードt=9.5+珪藻土左官仕上
2階
床/桜無垢フローリング塗装品t=15
壁/石膏ボードt=12.5+珪藻土左官仕上
天井/石膏ボードt=9.5+珪藻土左官仕上
■設備システム
空調 冷暖房方式/エアコン
給排水 給水方式/上水道直結
排水方式/公共下水
給湯方式/電気温水器
■主な使用機器
衛生機器/TOTO
浴槽/TOTO
厨房機器/松下電工
洗面化粧台/TOTO
照明/松下電工
■コスト
建築本体工費 1510万円(税込)
坪単価 46.83万円/坪
(建築本体工事/施工床)
●受賞・ノミネート
グッドデザインアワード2003「受賞」(ECO-CUBE)
AWDA2006「サスティナブル木造住宅提案賞」受賞
オール電化住宅オブザイヤー2005「最優秀賞」受賞
●掲載・出版
環境デザイン・ベストライブ2005(グラフィック社、既刊)
家種〜いえダネ〜(リトルモア出版、既刊)
大分の建築家の本vol.2(大分・書籍、1P)
現代日本の建築vol.2(日本・書籍、2P)
グッドデザインアワードイヤーブック2003-2004
AWDA2006受賞作品集
コンカ2006.02号
住まいと電化7月号(オール電化住宅オブザイヤー最優秀賞、2P)
●出展
大分の建築家展(大分、2006.03.26-04.02)
第3回未来をのぞく住宅展(大分、2006.06.02-04)
サスティナブル・フォレストの木 展(東京、2006.06.29-07.11)
現代日本の建築vol.2出版記念展(東京、予定)
グッドデザインプレゼンテーション2003(東京)
DATA
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古後 信二
(37歳)
(株)アトリエ・ラッツ一級建築士事務所 代表取締役
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■プロフィール
1969年 大分県玖珠町生まれ。
1992年 大分大学工学部建設工学科 卒業。
1994年 大分大学大学院 修了。(佐藤誠治建築・都市計画ゼミ)
1998年 アトリエ・ラッツ 設立。
2004年 四日市門前町まちづくり協議会顧問 就任。
2005年 有限会社アトリエ・ラッツ代表取締役 就任。
2006年 大分大学大学院非常勤講師 就任。
JIA九州支部大分会 幹事就任。
日本CM協会九州支部 幹事就任。
株式会社アトリエ・ラッツ代表取締役 就任。
所属:(社)日本建築家協会、(社)日本建築学会、
(社)日本商環境設計家協会、
オープンシステムネットワーク会議、日本CM協会。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■連絡先
(株)アトリエ・ラッツ一級建築士事務所
大分県大分市上宗方1996番地の1 K-SOHO 101
TEL:
097-542-7430
FAX:
097-542-7430
E-mail:
rats@oct-net.ne.jp
URL:
http://www.open-net.jp/site/page/jimusho/japan/kyusyu/ooita/rats/
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