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「CCI」 2006年3月号・・・木造SI(スケルトン・インフィル)
当事務所では、4年程前から木造住宅のSI化(スケルトン・インフィル化)に取り組んでいる。今回は、・・・/(株)本間総合計画 代表取締役 本間 貴史 氏
続 『建築革命宣言!』 〜オープンシステム/ピュアCMに挑む建築士たち〜
木造SI(スケルトン・インフィル)
当事務所では、4年程前から木造住宅のSI化(スケルトン・インフィル化)に取り組んでいる。
今回は、この木造SIについて、詳しく述べてみたいと思う。
寄稿
(株)本間総合計画 代表取締役
本間 貴史 氏
●研究し易い環境
建築家がCM分離発注を行うということで、ベタ基礎一発打ち等、工法の研究開発が行い易い環境にあることは本誌2月号でも紹介した。そんな取り組みの一例として、今回は木造在来軸組工法のSI化について述べることにする。
●短命な日本の住宅
日本の住宅の寿命は、平均して26年程度と云われている。欧米では、その倍又はそれ以上の住宅寿命であるのに比較して、極端に短かすぎる。それは、何故だろうか?
まず、戦後の復興期を経て日本政府の「持ち家政策」により戸建住宅が急激に増加した。しかし、安価な材料と簡便な工法による決して良質とは云えない住宅が普及することになる。うさぎ小屋等と揶揄されたのは、大きさだけではない。そのような住宅が数多く供給されてきた。そうして出来た住宅に増改築に耐えうる余力は無いに等しい。また、日本人の核家族化とライフスタイルの変化も挙げられる。かつて、日本の住宅が田の字の和室群で成り立っていた当時は、襖で仕切り、又は襖を取り外すことによって多様な可変性を持ち合わせていた。元々、和室は極めてフレキシブルな空間である。つまり、家族の変化に耐えうる造りだったと思う。
しかし、高度経済成長期、日本人の住まい方は劇的に変わっていった。生涯において家族数が最もピークの時期に住宅を新築し、子どもに専用の居室を与えるようになる。敷地の狭さにも拘らず、浸透していった洋室志向、個室志向によって、壁で細かく仕切られた1室1室はその用途でしかなくなった。そしてその壁には、筋交いが入れられる。耐震性を考え良かれと思って筋交いを入れることには違いないのだが、それは、将来、間仕切りを壊すことを想定していない。やがて、このことが日本の住宅の寿命を短くする一因になったと私は考えている。家族構成の変化、生活様式の変化が生じた時、間取りを変えていくことが極めて困難となってしまったからだ。戦前に建築された住宅の寿命のほうが長いことからも、それは伺えるのではないだろうか。
●在来軸組工法のリフォームの限界
2002年から2004年の2年間、私は宮城県高齢者総合相談センターの住宅改造専門相談員を務めていた。そこは、65歳以上の高齢者が住宅改造の悩み事を無料で相談出来る場所である。相談内容は、ほぼ似通った傾向にあった。「子どもは独立し、夫婦あるいはひとり住まいに今の家では使わない部屋が多すぎる。」「2階にある主寝室を足腰が弱ってきたので1階にしたい。」「1階の客間・廊下・納戸等の間仕切りを壊してワンルームに変更したい」等、総じて間取りを変更して広く使いたいという相談内容が多かった。ここで問題になるのが柱であり、梁や筋交いである。梁の補強や筋交いの入れ替え、基礎の変更など、400〜500万円程度の予算では到底リフォーム出来ない。リフォームするより新築したほうが安価で済むケースも少なくなかった。費用対効果を考えると当然のことかもしれない。日本の住宅が短命な理由は、家の老朽化ではなく、実は家族の変化に対応出来ないことにあるのではないかと次第に思うようになった。
住宅ローンを払い終え、やっと老後の楽しみを享受出来る時に、誰だって貯金を取り崩したくはない。老後の人生設計をも狂わし、いったいいつまで住宅の為にお金を払い続けなくてはならないのか?容赦なくスクラップ&ビルドが繰り返されるこの国はどうなっていくのだろう・・・。そんな業界に身を置いている自分が情けなかった。
この時、私は従来の木造在来軸組工法でのリフォームの限界と、木造住宅のSI化の必要性を強く感じることになる。
●木造スケルトン・インフィル
この問題に本格的に取り組むきっかけになったのが、ある案件での都市計画道路の存在だった。敷地は、仙台市中心部の住宅密集地。10年後、若しくはそれ以降に現在の庭のほとんどを、都市計画道路に奪われてしまうというものだった。ここに住宅を新築したいという建て主の将来を考えると、道路開通時の大幅なリフォームを想定した計画が必要だった。もしも、その時が訪れたら1階に配置したリビングを2階に移したい。その為には、外周部で構成されるスケルトン以外は内部に1本の柱も無いほうがいい。
たとえば、マッチ箱のように、内側だけ入れ替えできないだろうか・・・。
これが、木造SI(スケルトン・インフィル)に本格的に取り組むきっかけとなったのである。SIは以前から、マンション等に採用されてきた考え方である。RCや鉄骨造が主流で、戸建住宅においては、SE構法等の特殊工法はあるものの木造在来軸組工法ではほとんど普及していない。ゆえに、SIというと特殊工法が一般的だが、私はいわゆる特殊工法にはしたくなかった。普通の大工さんでも簡単に施工出来る、そんな汎用性をもった木造在来軸組工法のスケルトン・インフィル化にこだわっていた。
●木造SIの実例@『矢本の家』
具体的な例を挙げてみたいと思う。完全な箱型のSIの場合である。
この家は両親、弟、建て主夫婦、子ども2人という7人家族である。2世帯共有型にしても7人というとかなりの面積を要する為、廊下を排除した田の字プランとした。家族数が変化していく可能性も充分あったし、子どもたちの成長や家族のライフスタイルの変化など、家族がどんどん成長していくことが想定され、柔軟に対応出来る家づくりが必要であった。バランスのとれた構造計画、家族の変化、ローコスト・・・これらの諸条件をクリアする為に、スケルトン・インフィルで計画された。
この家は、外周部に耐力壁を設け、中断面の梁により大スパンを飛ばし、内部を無柱にすることによって自由度を高めている。構造体がボックスとなるので、内部の間仕切りの変更を比較的容易に出来るのだ。リビング・ダイニング・キッチンと明確に分かれているのではなく、大きな空間の中に家族室という部屋を設けている。中心には家族がいつでも集えるよう、大きな収納、大きな座卓を配置している。将来、1階も2階も全ての間仕切りを取り払い、ワンルームにも出来る。家族と共に成長する家である。
ここで疑問を持たれる方もいるかもしれない。マッチ箱のように内部が入れ替えられる木造SIの考え方では、内部に構造的な柱や筋交いを設けず、大空間で構成される為、耐震性において問題があるのではないかと思われるだろう。
実は、平成15年5月、そして7月、宮城県北部連続地震が発生した。まさに、この家の設計段階の時だった。建築地であった宮城県矢本町(現東松島市)も多大な被害を受けた地域である。この一帯は、河南町旭山から矢本町にかけて南北8kmの「旭山橈曲(とうきょく)」が走っており、その下には断層が存在する。この地震は震度6弱という強震であったにも拘らず、予期されていた宮城県沖地震とは異なるものとされた。
今後、更なる地震の脅威にさらされる可能性から、優れた耐震性が求められる・・・設計段階において発生した地震の悲惨さを目の当たりにし、これは否応無く今回の計画の課題のひとつになった。
机上での構造計算では、確かに高い耐力を持っている木造SI。だが、確信出来る材料が欲しかった。
そこで、矢本の家では建築中に、建て主立会いのもと、動的耐震診断システムによる耐震診断を行った。起震機で震度1程度の地震を人工的に与え、家の東西南北の4ヶ所にセンサーを設置して、その耐震性を測ってみた。地震の大きさ(加速度)は、406galに設定して行った。
診断結果は、東西南北全ての箇所で1000gal程度の地震が発生しても「安全性高」を示すという結果を得た。一般に400gal以上の地震は震度階級では震度7と示されており、阪神淡路大震災の地震規模は、マグニチュード7.2、加速度は818galを記録している。震度階級と加速度は、地震の継続時間等諸条件によって必ずしも一致しない場合もあるが、「矢本の家」の耐震性は高いということが立証されたのである。また、1階壁の最大ひずみ量に関しても、どの箇所においても「安全性高」の範囲に留まっており、損傷・大損傷の危険度は低いということがここでも立証されたことになる。
この結果について、構造事務所に診断結果のデータを渡し意見を伺ったところ、構造解析を行った訳ではないがおそらく通し柱の数が圧倒的に多いことが良い結果につながっているとの見解であった。私はリフォームし易い家を目指して設計したのだが、それが結果的に地震にも強い家になった。
●分割された木造SI実例A『杜の家』
前述のような木造SIは、特殊工法ではないが、ノウハウを若干要する。一方、更に汎用性を高めたかたちとして、分割された木造SIがある。前述の「矢本の家」のようなSIはボックス型のプランである必要があったが、ここで云う分割SIはいかなる形状でも可能である。それでは、具体例として「杜の家」を紹介する。
この家は当初、木質系の特殊工法を検討していた。LVL(単板積層材)大断面集成材RH工法(木質ラーメン構造)である。木造の大空間をつくり出す為に、この特殊工法によるSI化を試みたが、層2階と平屋の接合部分がネックになり、構造上とコスト上の問題が生じ、結果的に断念することになる。木造在来軸組工法で再度検討していった。ここで一番重要だったのが梁せいである。天井高を確保する為には抑えなければならないが、桁行方向のスパンが広い為、梁の断面が否応無しに大きくなってしまう。更に内部の柱を極力少なくしている為、梁が梁を受けるという耐力上不利な箇所もあった。耐力確保の為、最低限の柱を配し、SI化を進めていった。
最終的に、母屋ゾーン・水廻りゾーン・離れゾーンの3つのエリアに分割してSIを採用したのである。母屋ゾーンは層2階部分である。住宅密集地で広いとは云えない敷地条件の中、法的制限により最高高さを抑える必要があった。その為、構造材(梁)を表して内部天井高を確保している。将来、1階も2階も全ての間仕切りを取り払い、ワンルームにも出来る。水廻りゾーンは、将来迎え入れる母の動線を考慮して家の中心に配されている。離れゾーンは、道路に面した一番南側の和室である。将来的に母の部屋となる。北側に建つ層2階の母屋ゾーンの1階へ太陽の光を取り込む為、南中高度から角度を出し、屋根の最高高さを決定した。構造的に取ることが出来ない内部の柱は、水廻りゾーン同様に1ヶ所はあるものの間仕切壁は撤去可能な造りとなっている。
●木造SIの汎用性
私は、木造SIを”運動”として唱えていきたい。それは、日本の住宅を延命させる為に社会的意義があると考えるからだ。私の考える木造SIは、云わばコロンブスの卵的な話であり、構造設計の考え方をほんの少し変えただけの話である。そもそも新築時の間取りは普遍的なものとは思えない。将来のニーズは絶えず変化するものである。だとしたら、新築時からその間取りは簡単にリセット出来るように想定した構造計画にすれば良い。特に、分割された木造SIならば、誰でもすぐ出来るはず。設計に携わる人が少しだけ気を遣ってくれれば済むことだ。ただ、それだけである。
構造体と内装部分を分けて計画することにより、住人のライフスタイル・ライフサイクルに合わせて内部を自由に変えることが可能になる。それは、云い変えればリフォームのし易い造り方である。そうすることで、使い捨てにも似た日本の住宅事情を少しでも改善していけるのではないだろうか。私は、そう願っている。
DATA
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本間 貴史
(39歳)
竃{間総合計画 代表取締役
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■プロフィール
1966年 新潟県村上市生まれ。
1987年 国立宮城高専建築学科卒業。
針生承一建築研究所入社。
1990年 現事務所設立。
1996年〜 東北文化学園専門学校建築デザイン科 非常勤講師。
資格:一級建築士。一級建築施工管理技士。JIA登録建築家。
所属:(社)日本建築学会正会員。
(社)日本建築家協会正会員。
オープンシステムネットワーク会議正会員。
日本CM協会正会員。
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■連絡先
竃{間総合計画
宮城県仙台市泉区八乙女中央3-10-8-311
TEL:
022-371-6616
FAX:
022-371-6615
E-mail:
info@hom-ma.co.jp
URL:
http://www.open-net.jp/site/page/jimusho/japan/touhoku/miyagi/honma/
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