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『新建ハウジング』2005年1月1日号
ユーザーに非常識と映る業界の常識を破る〜『嘘のない価格』
ローコストでもなく価格破壊でもない「納得のコストでつくる家」をテーマに選んだのは、それを実践している人たちに出会えたのが大きい。共通するのは家づくりの主導権を建て主に戻すしかけをつくり実践していること。そこでは現場の職人たちの潜在力を呼び覚し、意図してもしなくとも住宅業界の常識を打ち破る原動力にもなる可能性を秘めている。今回はそのような実践者のなかから設計者3氏の活動を追った。
本間貴史さん(宮城県)
建て主が直接、専門工事業者に分離発注することで、建て主主役の家づくりをすすめています。建て主は「自分で建てている」という意識を持ってくれるし、業者も元請けとして「この人のために」と思う。CM方式の価値はコスト削減だけではないんです。
分離発注で原価を把握し家づくりの主導権を建て主に
本間貴史さん
(株)本間樺合計画代表
宮城県仙台市
TEL022-371-6616
http://www.hom-ma.co.jp/
オープンシステムネットワーク会議は設計士をおもな会員とし、オープンネット梶i鳥取県米子市・山中省吾社長)が運営するネットワーク。そこでは「工務店価格」「設計価格」といった2重価格をなくし、目的の建物をつくるのに、実際どれだけの費用が必要かを明確にするため、分離発注方式による建築工事を提唱している。ネットワークのなかでも顧客対応やコスト管理・建て主へのきめ細かなフォローなどに定評のある竃{間総合計画〈宮城県仙台市)代表の本間貴史さんにそのしくみを聞いた。
工務店一括発注と分離発注、建て主に合わせて使い分ける
1年2ヵ月の下積み
竃{間総合計画は4年前、オープンシステムネットワーク会議(オープンネット)に入会した。着目したのは複数の工種を分離発注してそれぞれ入札を行い、工務店を通さず、落札した専門工事業者と建て主が直接契約するしくみ。発注代行をはじめ建設プロジェクト全体のコントロールを建て主になり代わって設計士が行うという、CM方式に基づく取り組みのひとつだ。
工務店を通さないため、わかりにくいと言われる家づくりのコスト(材料原価や労務費など)が明確化するなどのメリットがあるが「CM方式についてのノウハウを持たない自分に本当にできるかどうか不安だった」という本間さん。安全管理や職人への指示の出し方など細かなノウハウの修得や、20年間工務店の現場監督を務めてきたベテランを事務所に招き入れるなどの準備作業をていねいに行い、入会から約1年2ヵ月後、ようやくCMで建築工事を行ったという。
長所・短所の理解
入会後も工務店一括発注を建て主の選択肢として残しながら、これまで16件のCM業務委託契約を受託してきた本間さんは「分離発注と工務店一括発注はそれぞれにメりット・デメリットがあり、現状ではどちらか一方が優れているというものではない」と言う。
「分離発注は、建て主が直接業者と契約するため、主体的に家づくりしたいという気持ちが大切で、コストダウンだけを目的にできるものではない。建築に1年近くを要するのですから、楽しんで家づくりができるような建て主でなければ意欲が続かないし、たとえ建築中でも建て主に一定の責任がかかることも事実です」。
本間さんはCM・分離発注の課題として@リスク管理A業者の意識B建て主の理解、を指摘する。
リスク管理とは、例えば建築中の現場で床の着生シートをめくると傷がついていた、などの現場ではよくあるトラブル。工務店一括発注ならば工務店の責任で直すものだが、CM・分離発注の場合は誰がつけたかわからない傷ならば結果的に建て主が修繕費を負担しなければならなくなる。専門工事業者が工事を終え支払いも終わった個所では、たとえ建築中でも建て主の所有物となるからだ。
業者の意識や建て主の理解は、CMが一般的に普及すれば解決する問題だ。しかし、本間さんがCMを始めた当初は、指示を出すまで動かなかったり、別業者が施工した下地状態をチェックせずに仕上げを行うような、下請け意識の抜けない業者もあったという。一方で建て主も、家づくりとの関わりをわずらわしく思うようではCMでの家づくりはできない。
しかし、言い方を変えれば、現在「蚊帳の外」に置かれることの多い建て主に家づくりの主導権を与え、専門工事業者を下請け意識から脱却させることができる。何より、これまで不透明だったコストが明確になることで建て主の満足度も高まる。また、本間さん自身もコストアップ要因を具体的につかめるようになったことで、より自由な采配で設計にのぞめるようになったと言う。
項目細分化でコスト明確に 決定権はすべて建て主
CM方式の採用は建て主の意欲次第
本間さんのCM方式による家づくりは上記のような流れで行われる。
まず、契約を交わす前に平均して2回程度の「建築相談」を行い、設計事務所に依頼する意味などを説明する。相談者がCM方式を望んでいない限りは工務店一括発注を前提として契約する。「建て主の理解と意欲が必要」なため、あえて本間さんからCM方式を勧めることはない。
契約段階でまだ迷っている場合は、とりあえず工務店一括発注で契約し実施設計に要する6ヵ月の間に決めてもらう。CM方式にきりかえる場合は、設計契約に追加してCM業務委託契約を結ぷ。
設計に着手する前に簡単な予算配分表[表1]をつくり、設計の目安にする。予算オーバーの可能性があることを建て主に了解してもらったうえで、建て主の要望をできる限り取り入れて設計を進めていく。
ささいなことでも建て主が選ぶ
これまでの入札によって得られた材料単価や工賃のデータをもとに総工事費を積算する。それが予算オーバーの場合は「珪藻土からエコクロス」というように、仕様を変えた減額案を数十項目提案する[表2]。減額案はA・B・C…とランク分けし、建て主の妥協点を探る。
仕様変更も含めた実施設計が終わると、オープンシステム業者バンク(※1)に加入している業者や知り合いの業者などに案内書を送付し、着工2ヵ月前に入札希望業者を集めて入札の説明会を行う。競争原理を働かせるため、各工種3業者以上になるようにする。
入札の項目はできるだけ細分化する。「例えば、電気の配線工事と照明器具・換気設備機器などは、同じ業者に依頼すれば楽ですが、これらを分離して発注すればコストがより明確になるだけでなく、コストダウンにもつながります。換気設備だけ別の業者にお願いするのは難しいですが、金額によってはやってくれる業者もありますから」と本間さん。
こうして細分化した各項目について、材料の数量を積算した金額抜きの予算書[表3]をあらかじめ用意し、設計図書といっしょに説明会で配布する。業者は材料単価や金額を書き込むだけでよく、拾い落としも少ない。こうすることで単価の比較や記入ミスの確認なども容易になる。
大工仕事は競争させない 職人のやる気を引き出すしくみ
「次回の参考に」落札価格帯を通知
価格の比較がしやすいように工種別に業者価格比較表[表4]を作成、入札した業者のなかからもっとも安い業者が落札となる。落札できなかった業者には、大まかな落札価格帯を通知[資料]して次回の入札の参考にしてもらうとともに、その業者の単価データを次回の概算予算書作成の参考にする。
落札額から全体の工事費を算出し、予算が余れば減額案で削減した工事の復活案[表5]を出し、建て主にもう一度検討してもらう。
価格で選ばない項目もある
前述の「床に傷」のような予期せぬ事態に対応するために、総工事費の3%程度を「リスク調整費」として余分に残しておく。なかには極端に低価格で入札する業者もあり、そういう場合はリスク調整費を増やす。「でも、これを使うことはほとんどありません。業者もCMがどんなものかとか、元請けになってみたいなどの思いがあり、赤字を覚悟で入札しているみたいです」。
ただし、安いものが一番よいということではないと本間さんは言う。「同規格の建材なら安いものが一番いいけれど、業者を買い叩くような過競争になってもいけないし、単純な価格競争で選ばないこともよくあります。例えば大工工事。とくに木造では棟梁の采配や大工の腕が非常に重要で、これを安くしようとすれば大工のやる気もそいでしまう。大工工事だけは手間のみで信頼できる大工さんを指名しています。
落札後に本間さんが業者に価格交渉することは一切ない。業者自身が提示した価格なので、職人のやる気もそがない。
意識に変化
業者 「元請けの自信・いい仕事したい」
建て主「自分で家を建てている」
現場監督に疑問
本間さんがCMに興味を持ったのは「職人さんと直接話がしたかった」から。以前店舗の改修工事を設計監理したとき、腰壁の無垢木材にオイルステインの塗料を塗る予定が、現場監督の独断で木の味を消してしまうような濃色のオイルペイントを塗ろうとしているのを発見。指摘すると「壁紙の糊が木部についてしまった。目立たなくするにはオイルペイントにした方がよい」と現場監督に言われたという。短工期で工程が逆転したための問題だった。
糊がついた部分をサンドペーパーで削ってみてはどうかと提案したが、無理だと言われた。「どうしても納得がいかず、私が現場で実際にサンドペーパーをかけてみたら、きれいにできたんです。私がやっていたら職人さんも『俺がやるよ』と手伝ってくれた」。現場監督を通さず職人さんと直接話せていたら、もっとスムーズに話が進むんじゃないか、現場監督がいない方がいい場合もあるんじゃないか、そんな疑問が芽生えた。
「元請けの自信」
こうして始めたCM方式。当初は業者や建て主との関係に苦労もしたが、経験を積んで、いい仕事をする業者、安く仕上げてくれる業者など、それぞれの特徴がつかめるようになった。業者にも建て主と直接話し、その要望が聞けることでいい仕事をしようという「元請けの自信」がでてきたそうだ。
CM方式には「工務店価格」「設計価格」といった2重価格は存在しない。加入業者は工務店への卸価格で材を提供する。原価がしっかり把握できるようになり、以前は工務店との価格交渉に頼っていたコストコントロールが、設計段階からはっきりとわかるようになった。
「自分で建てる家」
各工事の材料単価・工賃といった細かな内容や仕様の変更などもすべて建て主に細かく説明し、建て主自身がその内容を理解して選択することや、直接職人と会話し、状況を把握できることは建て主の意識も大きく変えた。
「CM方式の建て主は、みんな『自分で家を建てている』と口をそろえます。竣工後もDIYをするときなどは私ではなく業者に直接話して相談したりしているみたいです、設計士としては少し寂しい部分でもありますが、いい傾向だと思います」。
ただし、それによるトラブルがないわけではない。建て主が工事中の業者に勝手に価格交渉して、業者がやる気をそがれ品質を落としてしまうこともあった。「建て主も、家づくりには職人や業者との関係が重要だということを認識しなければなりません」。
建て主・施工者・設計士すべての力が必要
オープンシステムでは、発注代行や工程管理などを、すべて設計士が兼務する。竃{間総合計画のCM業務委託料は、オープンネットの代表・山中省吾さんが使用する計算式で算出。基本料金を150万円とし、床面積1uあたり2万2000円を加算するというもので、延べ床面積200uなら590万円となる。
これは決して高い額ではなく、膨大な作業量から見れば「これで泣くことも多い」と本間さんは言う(※2)。オープンネットではとくに委託料を拘束しておらず、設定は会員設計事務所の自由。が、本間さんはコストを明確化するためにも、山中さんと同じ計算式を使用している。
「仕事が増えるかもとか、コストダウンできるとか、CM方式はそういう目的でできるものではありません。業者や建て主との関係、工程管理、原価管理、リスク管理などすべき仕事は多い。CM方式は建て主、施工者、設計事務所の、家づくりに関わるすべての人のやる気を総動員しなければできないんです」。
補足説明
※1 オープンネットに入会する専門工事業者のこと。
ホームページで地域別に分離発注を請け負う業者を紹介している
※2 2004年12月にオープンネットのホームページに
各種契約書専業者比較表などの必要な書類の作成支援
ソフトがアップされた。本間さんも「作業量も少しは
落ち着く」と期待を寄せている
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