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「CCI」2005年2月号
続『建築革命宣言!』 〜オープンシステム/ピュアCMに挑む建築士たち〜 山中省吾氏
続『建築革命宣言!』 〜オープンシステム/ピュアCMに挑む建築士たち〜
『山中省吾』
寄稿
オープンネット(株)代表
山中 省吾 氏
■必然から生まれたオープンシステム
1992年夏、私たちがやろうとしている決意を「建築革命宣言!」と現して、行動を開始した。あえて「革命」という言葉を用いたのは、若き日に愛読した『レ・ミゼラブル』 の一文が強く残っていたからである。
「革命は偶然から生じるものではなく、必然から生まれるものである。革命は、虚構から現実へと戻ることである」。
私の目に映った建築業界は、まさに、虚構の上に成り立っていた。
金額も利益も、あまりにも大きな割合を占める公共工事。大手ゼネコンも地場ゼネコンも仕事を分け合えばよかった。元請、下請、ともじゅうぶん潤った。そこには、新しい技術を開発し積極的に提案するよりも、 先例に倣うほうが無難であり、コスト要因を分析し施工の合理化を追求するよりも工事の予定かかっくに探りを入れるほうが近道だった。
優秀な建築技術者の多くは、公共や民間の大きなプロジェクトに目を向け、住宅建築などは歯牙にもかけなかった。 「住宅の設計では、飯など食えるものか」と思っていた。
その間隙を縫って、ハウスメーカーが台頭した。最初は、大工の棟梁も工務店のおやじも、「あんなもの、家じゃない!」と、たかをくくっていた。 しかし、一世一代も経ずして、結果は明らかになった。徹底的に合理化を図り、デザイン面を強化し改良を続けたハウスメーカーにとって、田舎の工務店や大工の棟梁など、所詮ライバルに値しなかった。 だから、粗利益率を50%以上確保しても、面白いようにシェアーは拡大し、やがて日本有数の大メーカーに成長していった。
建築業界は、このような虚構の上に成り立っていた。そこには、建築における本来の主役(施主と設計者と職人)は影に隠れがちで、受発注の機能を手にした元請会社の都合が優先する仕組みが出来上がっていた。
だからこそ、私たち建築士によるオープンシステム/ピュアCMは、必然から生まれてのであり、建築業界の虚構から現実へと戻るために生まれたのである。私は、このように確信している。仲介者。ここを取り払ってみたら、 建築生産における物の流れも人の動きもまるで霧が晴れたように見えてきた。施主の思いは反映され、設計者の創造者は増し、職人は伸び伸びと技を発揮することができるようになった。
1992年夏、これが、従来の一括請負からオープンシステム/ピュアCMへの転換であり、建築革命への第一歩であった。
無関心、嘲笑、非難、抑圧、尊敬。私たちの建築革命が必然から生まれたのであるならば、この5つの過程を経るのもまた必然である。 オープンシステムが全国的な広がりを見せ始めるには、建築革命宣言を行ってから6年の歳月を要した。
1998年あき、志を同じくする設計事務所を糾合し、そろぞれの設計事務所が行ったオープンシステム事例の体験や、体験を通して培われたノウハウを 共有する学びの場として、オープンネット(株)を設立した。
オープンシステムは、建築を作るときの一つの方法であり、設計事務所がこれまで行ってきた設計・管理業務の流れと基本的に何ら変わりはない。 従来と大きく異なるのは工事の契約状態で、それは、従来の一括発注の違いである。分離発注による建築生産のプロセス全体を、設計事務所が マネジメントして完成させる方法をオープンシステムと名づけた。
オープンシステムは、建築を作るときの一つの方法であり、設計事務所がこれまで行ってきた設計・管理業務の流れと基本的に何ら変わりはない。
オープンシステムを伴う設計事務所に、特別な縛りはない。それぞれの事務所が、それぞれの立場や能力に応じて、 それぞれの事務所の責任と判断で業務が行われる。
オープンネット(株)設立後、されに6年が経過した。2004年末、オープンシステムに取り組む設計事務所は全国で292社となり、 事例は累計で1480棟になった。それぞれの事務所が、無関心、嘲笑、非難、抑圧、尊敬というプロセスを経ながらそれぞれに奮闘して今に至った。
設計事務所だから設計能力が優れているとは限らない。設計事務所の上を行く工務店もある。工務店だからコスト管理・施工管理能力に優れているとは限らない。 工務店を凌ぐ設計事務所もある。能力は、会社の形態とは無関係であり、個々の資質と努力の結果である。また継続的に研鑽し技術の向上を図る環境に置かれているかどうかで決まるものだ。
オープンシステムの業務は、設計者の能力がそのままストレートに反映される。非難も尊敬も、すべて背中合わせの業務である。 そのように過酷な業務ではあっても、短期間のうちに施主と職人の信頼と尊敬を勝ち得た設計事務所は数多く誕生した。 そういう先駆的な事務所が、また、新たな革命の波を起こしつつある。
■オープンシステムCPD研修
オープンシステムは、業務の細分にわたって検討され、体系つけられ、書式が整備されてから始まったものではない。 まずコンセプトが生まれ、業務の大枠が検討され、成分は実践を通しながら構築されてきた。 したがって、まだまだ未完成である。常に変化し、常に向上を繰り返すのがオープンシステムである。 建築革命には、建築士自身の革命に終わりがないのと同じく、「ここまできたらもう完璧」という到達点はない。建築革命は、 永久に続くのである。
オープンシステムの事例を先駆的に切り拓いた事務所は、自らの体験を披露し、業務のプロ説や書式、その他苦心した点などを 公開してきた。他の者は、それを参考に学び、挑戦し、自らの業務の改善を図った。 それらは、メーリングリストやWEB上で行われたり、勉強会や研修会を企画して、建築士たちが集まって行われたりもした。
このような研修会を、全国的な規模で計画を立てて行ったのが、オープンネットのCPD研修会である。03年10月の仙台会場を皮切りに、これまで全国主要都市8都市 で延べ21回行われた。この研修会は、オープンネットの会員事務所以外にも開放され、延べ1141名(会員710名会員外431名)が受講した。
代表的な事例や先駆的な事例に取り組んだ建築士10名が講師となって各地に飛び、自らの事例を詳細に公開した。各人各様、それぞれに聞くものを唸らせる内容であたったが、 公開された10の事例に共通する課題も見えてきた。
■オープンシステム業務支援サイト
「なんと膨大な作業量だろう!」「なんて、さまざまな書式があるのだろう」
CPDの事例発表で見えてきた共通の課題。私たち設計者は、創造的な作業に時間を費やすのはけっして厭わない。それが本来の業務である。 しかし、書類の作成や連絡・報告等の事務的作業は、できる限り効率的に進めたい。 IT技術を駆使して解決できないものか?
オープンシステムの業務は、どのような建物であれ、またどのような建築士が行ったものであれ、力の入れどころに差があっても、業務を進める手順はすべて共通したものがある。 また、業務を進める過程で必要な書式がある。
私たちはさっそく検討作業に取り掛かった。そして、『オープンシステム業務支援サイト』の完成に漕ぎ着けた。 業務支援サイトは、会員専用のHPで運用している。概要は以下である。
オープンシステムの会員は、ユーザー名とパスワードで専用HPにアクセスする。ここで物件を登録し、物件毎に必要な書類がつくられていく。パスワードは、会員が設定し暗号化されているので、その事務所の専用のHPにしかアクセスできない。もちろんサービスバーの管理者もアクセスすることはできない。
基本事項に入力した内容は、すべての物件と書類に反映される。事務所名、所在、電話、メールアドレス、銀行名、号座番号、スタッフ情報などである。
基本的に書類は、入力ファームと印刷画面で構成されている。一度入力した事項は、後に必要な全ての書類に反映される。計算が必要な書類は自動計算で表示される。
専門工事会社に関する情報は、データベースから呼び込まれ整理することができる。専門工事会社には、受託報告、見積開始報告、発注説明、見積結果報告、契約の案内等が≪送信ボタン≫を押すだけで報告・案内のメールが流れる。登録されている専門工事会社(業者バンク)以外の業者は、入力ファームに登録すると、以後その事務所の全ての物件に反映される。
業務支援ソフトをつくった目的は以下である。
1.行うべき業務を書式で明確にする
2.業務の流れを明確にする
3.書類作成等の事務的作業を軽減化する
この業務支援サイトは、実際に使いながら修正したり付け加えてりして、より実践的なものにバージョンアップしていくことになるであろう。
■これからのオープンシステム
さて私は今、これまで実践してきた12年間のオープンシステム業務を振り返って、感じるところがある。それぞれの業種ごとに複数の専門工事会社かれ見積を取り、内容を比較検討して請負業者を決めるというやりかたは、確かに必要なプロセスであり基本である。しかしそこに、CMrとしての高度な技術を吹き込まなければ、本物のオープンシステムにはならない。
少し具体的に述べよう。ビケ足場の単価はいくらか? この業界、何故か架けuではなく、延べ床uの単価で見積もっているところが多いのも不思議であるが、それは置くとして、900〜1000円/延べ床uが「相場」である。 「相場」と書いたのには、訳がある。「他所と比較したらこんなもんだ」というのが相場である。米や大豆なら相場でよかろう。建築なら、健在の価格は相場でよかろう。徹底的に比較検討して安いところを探せばよい。しかし、ビケ足場の架設・解体は、施工手間が主である。段取や職人の熟練度で手間は大きく違う。だからこそ明確な根拠を持たなければならない。それが、技術者としての姿勢である。
ビケ足場の単価は、材料、トラック、土地・建物の償却費と人件費で構成されているはずだ。ならば、それを分解してみる。私は、ビケ足場の会社から聞き取り調査をし、その他可能な限りの情報を集めて分析した。
延べ床面積150u(約45坪)に必要なビケ足場は、100万円で新品が買える。新品のビケ足場は、200回使い回しができる。1現場の償却費は、100万円÷200回=5000円。延べ床面積に換算すると、5000円÷150u=33円。わずか、こんなものである。誌面の都合で詳しい根拠を示すことはできないが、トラック、土地・建物、さらにトラックの燃料費を延べ床面積に換算しても、10円足らず。したがって、ビケ足場のu単価に占める人件費以外の経費は、多くても50円
私は、現場でビケ足場の架設と解体の時間を計って見た。若い職人が2人で作業した。架設に約7時間、改定に約5時間を要した。実は、私の手元に、ビケ足場の標準施工時間のマル秘資料がある。その資料によると、職人2人で、架設に4時間、解体に3時間が、「熟練すればできる」時間とある。
私は、足場会社の社長と夜遅くまで話し合った。社長は言った「確かに熟練すればできる」と。私は言った。「ならば若い職人を徹底的に教育、訓練しようじゃないか!本来、賃金とは、熟練工を基準にきまるものである。」
私はこうして、家づくりにおける全業種の作業工程を細かく分析し、職人の作業手順の改善、教育・訓練を行うことに踏み切った。膨大な労力と時間を要するのは覚悟の上。本当の根拠が知りたいのである。本物のオープンシステムをつくり上げるには、どうしても必要な道である。いつか、その成果を効果するときがくるであろう。
(ビケ足場の職人の時間給はいくらになるか?読者自身が計算してみてください)
■『続・建築革命宣言!』連載開始
ちょうど5年前の2000年2月号、このCCI誌上で連載が始まった。題して『建築革命宣言!』。後に加筆して、『価格の見える家づくり』というタイトルの本がコスモリバティ社から出版された。
2005年2月号、再び『続・建築革命宣言!』と題して連載が開始されることになった。初回は私が執筆し、オープンシステムの現状に触れた。次回からは、オープンシステムに挑む建築士たちが執筆し、自らの事例をこのCCI誌上で詳細に公開する。
オープンシステムの建物には、それぞれにドラマがある。また、業務も多岐にわたる。一度の誌面で、とても書き尽くせるものではない。おそらく、一人の執筆者が何回か連続で執筆し、次の執筆者にバトンを渡すことになる。
それぞれの執筆者にも、またドラマがある。建築を志したときの思い、建築業界に飛び込んだ後の苦悩と喜び、このようなことが赤裸々に綴られるかもしれない。また自身がどのようにオープンシステムを捉えているかが綴られるかもしれない。
いずれにしても、業務の流れや書式といった実務的な説明に終わらず、オープンシステムを実践してきた建築士たちが、それぞれの目で見据えた、現実と未来を織り交ぜた繊細になるだろう。乞うご期待!
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