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「CCI」 2005年10月号・・・建築士の卵とのコラボレーション物件 F
コラボレーション物件、いよいよ完成!!/鰍ンずほ建築事務所 所長 山田 雄一 氏
続 『建築革命宣言!』 〜オープンシステム/ピュアCMに挑む建築士たち〜
建築士の卵とのコラボレーション物件 F
コラボレーション物件、いよいよ完成!!
寄稿
鰍ンずほ建築事務所 所長
山田 雄一 氏
前号では、「古い小学校の梁材の行方は・・・」ということで、工事の後半部分等について述べた。今回は、いよいよ完成である。そして、これら一連の事から見えてきたこと、今後の我々建築家の進むべき方向性を、私なりの考え方でまとめていこうと思う。皆さんの今後の活動のヒントの一つにでもなれば、幸いである。
●完成・引渡し
いよいよ、大改修物件が完成した。長かったような短かったような・・・。この物件における、様々なことが頭の中によみがえってくる。このような物件は、もしかしたら私の人生ではもうないかもしれないが、生涯忘れられないものとなった。また良い意味で、いろんなものを私に与えてくれた。
引渡しが終わり、Hさんが、完成したばかりのこの大きな家での晩餐会に誘ってくれた。しかも「ぜひ泊まっていってください」と言うのである。引き渡してすぐの物件に、宿泊するというのは私も初めての事で、「本当にいいのですか?」と問い返したほどである。Hさん曰く、「設計した物件に宿泊したら、夜や夜中、早朝の雰囲気も体感でき、今後の山田さんの設計にプラスになるでしょ。」Hさんは、なんと懐の大きな方であろうか。なかなか出来ない経験であり、Hさん夫婦と一緒に晩餐を楽しみ、宿泊させてもらった。当然寝る場所は、大きな吹抜け空間。寒い時期ではあったが、床暖房をしたのでとても気持ちよく眠ることができた。もちろん朝も目覚めはすっきりである。貴重な体験をさせていただいた。
これまで私は、いろいろな住宅を設計してきたが、キッチン関係は奥様の意見が反映され、浴室関係はご主人の意見が尊重される、というパターンが多い。なんと今回の宿泊体験で、Hさんは一番風呂に私を入れさせてくれたのである。これには感激した。オープンシステムで家を建てると、当然現場に行く回数は飛躍的に増える。しかし、施主との接点も多くなり、今までの通常の「設計・監理」とは違った、良い意味での人間関係が構築できる。
完成してしまうと、それ以後あまり会えなくなるので「なんか寂しくなるね。」とお施主さんによく言われてしまう。普通の「設計・監理」業務で味わえない、ダイナミックな事をオープンシステムというものは体験させてくれるのである。
●完成パーティー
Hさんの引越しも一段落し、慌しさが落ち着いた頃に、例の吹抜けのために解体した梁材がカウンターに有効利用されている「万国料理:むささび亭」で、Hさんご夫婦、今回コラボレートしてくれた石川高専の学生さん達、先生で、完成パーティーを開催した。むささび亭の2階を貸切で、総勢30名以上となった。
まず、皆には「これがH邸にあった梁材を加工したカウンターです。」と紹介し、Hさんも有効利用された実物を見て大感激。
むささび亭のマスターも、「このレストランは、オープンシステムという分離発注で建てて、これからの時代の一つの羅針盤やで!」と皆に力説してくれた。
このカウンターには、「この一枚板の無垢材のカウンターがどうやってむささび亭にたどり着いたのか?」という一連の流れを、むささび亭に食事に来たお客様に理解していただくために、以下のものを掲示させてもらっている。
文章の内容が見づらいと思うので、何を書いて掲示してあるか、以下に紹介したいと思う。
むささび亭マスター ご自慢の一枚板カウンターの物語
このカウンターは、正真正銘の一枚板のカウンターです。
富山県氷見市の昔の小学校を移築して保存されていた、
大きな大きな納屋の松の部材です。
その大きな納屋、3世帯の住宅に劇的に大改装することとなり、
設計上吹抜けになる部分の不要になる構造梁材を
製材所・家具屋さんが加工して、むささび亭のカウンターとなりました。
古い良い部材を処分せずに、有効に再利用する。
このような考え方を皆が持てば、これからの文明社会も
大自然と共生し、人類は生き抜いていけるのかもしれません。
このカウンターに耳を澄ませば、木造校舎時代の古き良き
日本の子供達の笑い声が聞こえてくるかもしれません。
あの当時の純真なハートを今一度我々は思い出し、
自分の為だけではなく助け合い、思いやりの心を持って
生きていけるようになりたいものです。
この「むささび亭」、このカウンターから、
そんなことを考えられる「きっかけ」になれば嬉しく思います。
完成パーティーは、私の挨拶、Hさんご夫婦の乾杯でスタート。狭い2階の貸切りスペースにすし詰め状態であったが、非常に楽しく有意義な時間を過ごすことができた。達成感と開放感が重なり合い、皆の顔は輝いているように見えた。非常に大変な物件ではあったが、私は心の中からこの物件を経験させてもらって良かったと思えた。
●数ヶ月経って・・・。
年も明け、Hさんは新しい環境での生活に慣れ数ヶ月が経っていた。ちょうどその頃、このCCIの5月号で、山中代表が執筆されたオープンシステムでのCPD(継続教育制度)の北陸での勉強会のために、富山県に来ていた。山中代表から「山ちゃん、CPDの次の日は、Hさんの家を見に行きたいのだが。」と連絡が入った。早速、Hさんに承諾してもらい、CPDの次の日に、山中代表と私はHさん邸にお邪魔した。山中代表はこの建物を、完全に完成してから見るのは初めてで、やはり大きな吹抜け空間に感激していた。
Hさんご夫婦と山中代表は、久しぶりの対面である。あれやこれやと4人で談笑すること3時間。北陸の美味しい寿司を、2階のとっておきの場所から、立山連峰を見ながら食べさせていただき、非常に有意義な時間を過ごすことができた。
●建築家とは?
今まで私は新築物件が多かったが、ここのところ、なぜか改修物件が増えてきている。それも施主は壊したくないのだけど、知り合いの設計者や工務店に相談したら、「壊して新築したほうがいいですよ。」と言われて、(それだけは嫌だ!)と思った施主が、何かしらの縁や人間関係で、最終的に私のところに話がやってくるというのが多いのである。(今まで住んでいた家を全部は壊したくない)、(店舗を営業しながら大改造したい)等、理由は様々であるが、私は可能な限り要望を取り入れて、大改修の設計を行っている。
某人気番組の影響があるのかもしれないが、建築家という存在は徐々に世の中にアピールされてきていると思う。しかしながら一般の人の大多数は、(設計事務所や建築家に家を頼むなんて、お金のある人だけの話で、工事費も高くなるだろうし、勝手なデザインで施主の意見をあまり取り入れてくれないだろう。)と思っているのではないだろうか?
確かにその一面があったのかもしれない。建築家も景気のいいときには「住宅なんて暇がかかるし儲からない」と思っていた人も少なくないであろう。しかし、私はこのオープンシステムに出会ったとき、その考えは捨てることが出来た。住宅と言うのは商品ではないはずであるし、そうあってはほしくない。私の家づくりのコンセプトは、「家族が帰ってきたくなる家」である。話は大きくなるが、家族が仕事や学校が終わったら、「早く家でくつろぎたい」と思うようになれば、その家族は少なくとも話し合いが今までより多くなり、良い方向に向かっていくのではないであろうか?
そういう意味で、家づくりというものは非常に面白いし興味深い。このような楽しい「住まい」が日本中に増えていけば、きっと核家族化も多少は防げるのではないであろうか?またそのことにより、身内の不幸というものに接することになっていくわけで、そのような不幸な事態にも直面し、真剣に「死」というものに対して考える事が出来ることにもあるであろう。これらの悲しみというのは、ある意味において避けては通れないものであり、それらを経験することにより、低年齢化している犯罪を少しでも減少させることが出来るかもしれない。ハード面も当然重要であるがそれだけでなく、こういったソフトの面まで考えてこその「家づくり」であるだろうと、最近特に強く思うのである。さらにそれが広がっていけば、本当の意味での地域としての「まちづくり」の考え方にもリンクしていくと思う。
●最後に。
いろんなことを考え、またいろんな体験をしていると、我々建築に携わる者の可能性はまだまだ大きな可能性を持っていると思う。一つの物体を設計して建てる、ということだけではないはずである。そこから派生する様々な事柄や人間関係、これらを自分の頭で整理したときに建築という仕事を通して、自分という存在が、一個人としてどれだけのことが出来て、またどのように社会に貢献できるか?食べていくために仕事をするというのは当たり前のことで、そのことプラス何かを、日々の業務に追われながらも、模索しチャレンジしていくことが必要なのではないだろうか?そうすることにより、より充実した人生が過ごせるのではないかと感じている今日この頃である。
今回のこのコラボレーション物件の仕事を通じて、私は様々な人間関係を構築することが出来たし、口では言い表せないほどの何かを得ることができたと思っている。
コラボレートした数人の学生からは、感謝の手紙が届いた。そんなこともあり、石川高専とのコラボレーションは、今回限りで終わらずに、是非継続していきたいと思っている。つい先日問い合わせがあった案件で、コラボレーションするには非常に面白そうなものもある。今後どう進めていくかはこれから考えていくが、理解してくれる先生、お施主さんがいる限り、私は継続していきたいと思う。
今回で、「建築士の卵とのコラボレーション物件」は、完結である。合計7回にわたり連載させていただき、関係する皆様には、この場を借りてお礼を申し上げたい。
次回11月号は、オープンシステムの私の良き理解者であり、またお互いに切磋琢磨しながら、いい友人関係である仙台の「本間貴史氏(ほんまたかふみ)」が連載を開始する。
彼は、某人気テレビ番組にも出演しており、私とは違って、その素敵な甘いマスクから男性のみならず女性ファンも多いとか。しかし建築に関するこだわりは、妥協を許さず真剣で、周りのものを圧倒させる何か不思議なオーラを持っている人物である。
きっと私とは違った切り口で、いろんな角度から「建築」というものを語ってくれると思うので、私としても非常に楽しみである。
E-mail:
mizuho@spacelan.ne.jp
URL:
http://www.open-net.jp/site/page/jimusho/japan/hokuriku/ishikawa/mizuho/
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