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「CCI」 2005年6月号・・・建築士の卵とのコラボレーション物件 B
  高専生との設計業務/鰍ンずほ建築事務所 所長 山田 雄一 氏

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続 『建築革命宣言!』 〜オープンシステム/ピュアCMに挑む建築士たち〜

建築士の卵とのコラボレーション物件 B

高専生との設計業務


寄稿
鰍ンずほ建築事務所 所長
山田 雄一 氏
 前号では、「施主と先生との出会い〜プランニング」について述べた。今回は、確定したプランから実際の工事前までの設計業務の仕事を、高専生や学校側とどう関わっていき、どうなっていったかの話をしていきたいと思う。

●基本設計

 確定したプランニングのコンセプトを重視して、基本設計に入っていく。学生さんには当事務所のスタッフといっしょに、既存の建物の正確な実測等をお願いした。既存の柱や梁の位置を正確に測っておかないと、設計上細かな数字が出てこない事を学生に教えつつ、建物の垂直精度も実測した。測量の結果、垂直の精度が一部悪かった。北面の壁面が、2FLから屋根面にかけて、かなり外側に傾斜していた。これは、大工さんに工事に入るときにチェーンブロックである程度直してもらう事にした。
 鉄筋コンクリート補強壁の構造計算は、高専の構造の先生にお願いし、既存の建物の柱、梁材と接合することにより四隅で強固に補強するという方法をとった。

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 上記の写真は、2階の改修前の写真である。ここで、平面計画を簡単に説明する。本当は図面を掲載すれば簡単なのであるが、施主のプライバシーもあるので、私のつたない文章力と4月号の既存の写真から、想像を膨らませて平面計画を頭の中に描いてもらいたい。幸いこのCCIの読者は、建築関係者ばかりなので大丈夫であろう。

既存建物:
■在来木造工法で、屋根は合掌作り。
■長辺約20M、短辺約11Mの長方形で、階高約4Mの総2階建て
■敷地の北側は庭部分で、南側はすぐに幹線道路、東側は田んぼで西側は施主の敷地。

施主の希望:
■3世帯住宅(Hさんの親夫婦、Hさん夫妻、息子さん)にする。
■南側の2階より立山連峰が見わたせるので、それを重視したものにしてほしい。
■プライベートな空間と、セミパブリックな空間を分離してほしい。
■屋根の大胆な合掌作りを、見えるようにしたい。
■なにしろ構造的に不安なので、強固な家にしてほしい。
■祖父、祖母に安心できる家づくりとしたい。
 
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 この写真は、2階の南側から外を見たもので、わかりづらいが立山連峰が素晴らしい圧倒的存在感で見える。

平面計画:
■1階にセミパブリック空間、プライベート空間(LDK)、親夫婦の部屋を配置。
■2階は中央部分を大吹き抜け空間として階段を設置し、Hさん夫婦の部屋、息子さんの部屋を両脇に配置。1階の中央部分に4.5畳の和室を配置。4面障子にして、上部は階段踊り場とし(階高が高いので)上部に強化硝子の床を敷き、行燈(あんどん)のイメージとする。
■4.5畳和室の踊り場のある吹抜け空間はあまりにも巨大であるため、1枚の大きな壁を上から釣るイメージでポイントとする。

外観計画:
■RCの補強壁を打放仕上げとして、それは意匠も兼ねた外観とする。
 RCとモルタル下地吹付仕上げ、木の板張り仕上げにて、家としての表情を作り出していく。
 屋根部分には、現在の軒先の下に庇を外周4方に設け、屋根の存在感を表現する。

 以上のような概要を、学校の先生や学生さんと打合せし、進めていった。具体的には、学生さんが書いた図面をM先生、構造の先生がチェックし、それをこちらで更に訂正して基本設計を進めていった。

 これらの過程で、学生さんが一番勉強になったであろうと思うことは、改修の難しさである。新築とはあきらかに違って、現存の土台や梁に合わせて高さを考えていかねばならない。それらから、階段の蹴上げと踏み面の寸法の関係も理解しないといけないし、何段で踊り場が適当か?それにより平面の各部屋の位置も関係してくることや、通常の住宅とは一味違った設計の経験が出来たと思う。

 また、既存の梁の架け方がバラバラで、その梁の下に柱が配置されるようにしなければならない。どこでどう梁材を補強していくか?この辺りは高専の構造の先生と考えていった。

 このようにして基本設計は進み、完成していった。次はいよいよ実施設計である。
 
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●実施設計

 実施設計はさすがにいきなり学生さんには無理なので、当事務所主導で進めていった。学生さんには展開図や立面図、建具図など、比較的簡単な図面を手伝ってもらった。ちょうど春休みに入ったこともあり、事務所にきて手伝ってくれる学生さん数人をリーダーとし、図面をまとめていった。
 私は、スタッフや学生に指示を与える一方、当然予算内にすることが求められており、概算の見積りをしながら進めていった。

 設備計画としては、各部屋はエアコン対応とした。断熱材は床・壁・天井ともウールブレスという羊毛の断熱材を使用。羊の毛はもったいないのでは?と思われる方もおられるであろうが、オーストラリアで羊の毛を刈る場合、短くすぎて捨てる顎の毛の部分を使用しているのである。

 吹抜け大空間に通じるLDK部分には、お湯循環式の灯油の床暖房を設置するものとした。これは、面積が広いため、予算とランニングコストの関係、また床板は無垢材を使用するためである。生活部分の給湯に関しては電気温水器とした。

 実施設計で一番大変だったのは、基本設計のところでも述べたが既存の2階床の梁材を、吹抜け空間を作るにあたり、どうやって架け替えたりしながら補強するかというところであった。これが明確でないと、木材の明細な見積り、大工さんの人工も正確なものは期待できない。ある程度は基本設計時で当然考えていたが、何度も現場に足を運び、実際に見てそれでも悩んだりしながら、高専の構造の先生とも打ち合わして進めていった。学生さんは現場などでは横で聞いているだけであったが、それでもかなり勉強になったと思う。
 

●思い出の品

 某人気番組を真似したわけではないが、思い出の品を設計に取り込んだ。一つは、格子状の昔の天井にあったもの。Hさんが、そのうちこの建物を住宅にするときに、何かに使おう!と大事に取っておいた品である。
 
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 さて、これを何に使おうか?私は考えた。また天井に使っては面白くもなんともないし・・・。そうだ!吹抜け中央の4.5畳の和室の照明器具として再生させよう!こう考え、Hさんに提案した。さあどうなるか、その時からワクワクしていた私だった。

 また敷地内にあったケヤキの木。昔、大きな台風で倒れてしまったそうである。そのケヤキを、他の物置に大事に製材してHさんは保管していた。「山田さん、これもどこかに使えないかな?」とHさんは言った。私はそのケヤキを、仏間の床材として使うことに決めた。それでもまだ余るので、テーブルに加工することにした。気分は某番組の「匠」であるが、違うのは私が加工するわけではなく、大工さんがするということ・・・。

 その時、Hさんには言わなかったが、大吹き抜け空間とすると、既存の大きな梁材が廃材として出現する。この梁材は松であるが、年月をかけて乾燥材になっている。これをどう使おうか?そのまま捨てたりしたら、意味が無いし・・・。私はもう既になんとか梁材を再生しなければ!という正義感に燃えていたのである。私はなんという単純な人間なのであろうか。

 そういえば、友人のH氏は、某番組に出演しているが、昔次のような事を言っていた。
 「山ちゃん、設計の依頼は増えるけど、<思い出の品を設計に取り入れてください。>という設計者泣かせの依頼が増えてきたよ。」

 しかし、これも建築家たるものの宿命であろう。まして、私は分離発注のオープンシステムの会員事務所である。できないはずがない。思い出の品を住宅のある部分に取り入れるのは、住む人にとってすごく大事なことである。それを楽しむくらいの建築家にならなければ・・・。

 ヨーロッパのグループホーム等を見てみると、壁面いっぱいにそれぞれの人の思い出の品や写真を飾ってある。この辺り、我々日本人も見習うべきであると感じるのである。

 話は戻るが、大きな吹抜け空間の梁材をどう使おうか?オープンシステムの石川県の仲間で、加賀市の大聖寺に「瀬戸設計」という、古民家再生をずっと手がけている事務所が存在する。様々な古材が集まるので、ついに古材バンクなるものを始めた。倉庫を借りて、そこに程度のいい古材を集め、欲しい人に格安で売っているのである。この梁材も引き取ってくれれば、有効に使われるかも?と思い、彼に連絡して見に来てもらった。しかし、あまりの大ききに運賃が高くなりすぎるということで、結局はダメであった。

 しかし私は諦めない。結果的には、いい使われ方が可能となった。この梁材、どう使ったか?これは、紙面の関係上、8月号くらいで有効な使われ方を披露したいと思うので、少々お待ち願いたい。実は、オープンシステムの山中代表が、この建物を見学に来て、その時に言われた言葉がヒントとなったのである。
 

●日本の住宅産業

 日本の住宅は、戦後間もなく国や住宅メーカーなど、利益優先で走ってきたことは否定できない事実である。終わったことは仕方がないが、問題はこれから日本の住宅とは、どうあるべきなのか?どう進んでいけばいいのか?これらを真剣に考えることである。それらを総合的に検証できるのが、我々建築家であり、建築士であると思う。日々、日常の業務に没頭しなければいけないことは当然であるが、少しでもそういう考えを常に自分のどこかに持って行動していけば、必ずや道は開けると私は信じている。

 オープンシステムの山中代表が、「建築革命宣言!」と謳っているのは、こういう意味が根本に含まれているのだと私は思う。
 日本の建築技術の伝承の重要性、また職人さんへの正当な報酬とは?森林保護とは?電気ばかり使用する住宅が本当にいいのか?等、数えればきりがないが、そのようなことを分離発注で住宅を手がけるようになり、より一層深く考えてくるようになった。

 職人さんたちは最近よくこぼす。「仕事がない、ゼネコンや工務店にたたかれて食っていけない!」と。でも、不平不満ばかりでなく、どうすればいいのか?そう考えていかねば、未来は拓かれない。これらを我々建築家と一緒に考えていく場を、オープンシステムというものは与えてくれた。こう感じてくれる専門工事業者や、職人さんが徐々にではあるが私の周りには増えてきた。非常に嬉しいことである。

 設計や思い出の品、再生の話をしてきたが、これらを上手く使うにしても、当然お金の話が絡んでくる。総予算、工程も考えながら、設計していかねばならない。なるべく各専門工事業者の重複作業が出ないようにも考える。今回は新築と違い、様々なことが考えられる。以前、台風でこの建物が倒れそうになったこともあるので、梅雨の時期、台風の時期の前には、補強コンクリート壁を設置しなければ・・・。と思い、実施設計はほぼ完了した。

 次回7月号では、積算業務、工程の考え方、専門工事業者さんとの契約会について詳しく述べたいと思う。
 

DATA
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山田 雄一(38歳)
鰍ンずほ建築事務所 所長
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■プロフィール
1967年 石川県金沢市生まれ。
国立石川工業専門学校 建築学科卒業。
(社)石川県建築士会青年委員長、
建築士会東海北陸ブロック青年建築士協議会運営委員、
(社)日本建築士会連合会青年委員を歴任。
現在、(社)石川県建築士会青年委員会相談役、
まちづくり委員会副委員長。
(社)日本建築家協会正会員。
オープンシステムネットワーク全国会議北陸代表幹事。
石川工業高等専門学校建築学科同窓会「ほおづえ会」副会長。
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■連絡先
鰍ンずほ建築事務所
石川県金沢市諸江町中丁303

TEL:076-237-3286
FAX:076-238-9693
E-mail:mizuho@spacelan.ne.jp
URL:http://www.open-net.jp/site/page/jimusho/japan/hokuriku/ishikawa/mizuho/
 
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