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「CCI」 2005年5月号・・・オープンネットのCPD研修会
  設計事務所が行うピュアCMの現実/オープンネット椛纒\ 山中 省吾

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続 『建築革命宣言!』
〜オープンシステム/ピュアCMに挑む建築士たち〜


寄稿
オープンネット椛纒\
山中 省吾 氏


■設計事務所が行うピュアCMの現実

 CMの機運が、俄かに高まってきた。とりわけ、設計事務所が行うピュアCMは、住宅等の小規模建物を中心に大きな広がりを見せてきた。10年前では、とても考えられなかったことである。
 設計事務所のピュアCMは、長いあいだ古い体質に浸ってきた建築業界に、新しい価値をもたらした。それは、価格の透明性を確保しつつ、@施主の思いを反映させ、A建築士の創造性を発揮し、B職人の技を引き出す、という大変欲張りな価値である。
 しかし、設計事務所のピュアCMだからといって、必ずしも成果があがるとは限らない。中には、トラブルに発展したケースもある。
 トラブルには、施主のわがままが度を過ぎたり、職人の元請け意識がなかったり、いろいろ原因はあるが、多くはCMを行う建築士の「説明不足」と「手順前後」が招いたトラブルである。建築士に、もう少しの知識と経験があったなら、あえて抱え込まずに済んだのではないかと感じる。
 ピュアCM/設計事務所が行う分離発注は、業務を行う建築士の知識と経験と力量で、大きな成果をもたらすこともあれば、不幸な結果を招くこともある。10の成功の裏に1の失敗。今、設計事務所が行っているピュアCMの現実は、このような状態ではなかろうか。

■オープンネットのCPD研修会

 知識や経験の公開には、大きな意味がある。とりわけ私たち建築士という職能人にとっては、大きな意味がある。まして、新しい分野であるCMに取組み、業界に新風を吹き込もうと奮闘している建築士にとっては尚更である。
 そこでオープンネットは、会員事務所の垣根を越えて、全国の建築士を対象に、私たちの経験や知識、そこから生まれた数々のノウハウを公開することにした。それが、オープンネットのCPD研修会である。
オープンネットに参加する設計事務所には、既に累計で1500を越えるピュアCMの事例がある。設計業界のレベルアップに寄与することもまた、ピュアCMの実践団体として先頭を走る者の責務ではないかと、私たちは考えた。
 オープンシステム/ピュアCMの事例が1000軒を越えた昨年、全国の主要8都市で、合計21回のCPD研修会を行った。延べ受講者数1141名。内訳は、オープンネット会員710名、会員外建築士431名だった。
 研修会の内容は、各地の事例を建築士=CMrが詳細に公開した。業務を進める手順、使用している書式、苦労や失敗、そこから生まれたノウハウなどである。
 このように、代表的な事例を詳細に比較検討することで、私たちは新たな問題点を発見し、次なるステップヘ進むことができた。そして、その成果が「オープンシステム業務支援ソフト」として結実した。

さて、今年のCPD研修会は、どのような内容で行うのか?

 読者諸氏には、しばし業務の手を止めていただき、CCI誌上でCPD研修疑似体験を味わっていただくことにしよう。
 今年のCPD研修は、研修に参加することでどうせ1日つぶれるなら、受講者には少々早起きをしていただき、5時限単位、延べ420分(7時間)の集中講義とする。時間帯は各会場共通で10:00開始、19:00終了のロングラン講義である。
 多くの知識と衝撃的な事実を知り、受講者の頭脳はいささかヒートアップぎみで研修を終える。ヒートアップした頭脳には帰路の夜風が心地よく、歩を止めて星々を仰げば、建築業界の未来をあれこれと思い描くような、そんな余韻の残るCPD研修会としたい。

■1時限目(75分):今、住宅業界の最前線で起きていること

 筆者は、自らの事務所でピュアCMを実践してきた。この13年間で経験したピュアCMの事例は100棟を超える。また、オープンシステムネットワーク会議を通して、全国各地の代表的な事例をつぶさに見聞きしてきた。
 このようなとき、経済産業省が主催する「住宅関連ニュービジネス支援策検討委員」の任を受け、更にまた、日本を代表する経営コンサルタントと接するなかで、CMとは別に、既存の住宅業界の最前線で起きている数々の衝撃的な事実を知った。
 一例を挙げよう。あるきっかけで、某工務店の住宅価格の明細を知った。工事原価は坪当たり15万円。現在の粗利益率は50%弱で、近い将来の利益率の目標は70%に設定しているというのである。
 「な、何なんだ、それは!40坪の住宅が工事原価600万円だというのか!分離発注を実践している筆者の事務所であっても、1600万円の壁に苦しんでいるというのに…」。
 筆者は、その工務店に接触を試み、設計図面と見積明細書を入手した。そして、これまで筆者の事務所で集めた専門工事会社の単価を落とし込んでみると、金額は約2.5倍になった。ショックを通り越して、逆に強い興味が湧いた。どうしても、建築の設計者として根拠が知りたいと。
 やがて、その工務店の社長と直に会い、詳しく話を聞く機会を得た。ひとつ一つの単価には、現場での作業手順の改善、設計ディテールの改善、職人の教育訓練といったものを、膨大な時間を費やしてつくりあげてきたという技術的な根拠があった。
 1時限目は、このような住宅業界の最前線で起きている事例を紹介し、これからの住宅業界の動向を探る。また、CMに取組もうとしている設計事務所にとって、今、最も大事なことは何か、欠けているものは何かを探る。
 しかし、それだけでは評論の域を出ない。ピュアCMの実践者である筆者は、その後筆者の事務所で取組んでいることを4時限目、5時限目で詳しく解説する。

■2時限日(75分):ピュアCMのトラブル事例とその要因

 手順を踏んでもトラブルは起き得る。事前に充分な説明をしてもトラブルは起き得る。それが、ピュアCMの現実だ。まして、手順を無視し、説明を省いて着手した場合は、好んでトラブルを呼び寄せるようなものである。
 筆者の事務所には、時に見知らぬ施主から電話が入る。揉め事の相談である。契約の当事者ではない筆者は、基本的に介入できない立場にある。しかし、「貴方が広めた分離発注だから」と言われると弱い。無料相談が始まる。
 施主と設計者の間には、異なる言語で会話をしてきたのではなかろうかと思えるほどに、何もかもが見事にすれ違っている場合がある。そのようなとき筆者は、相談役から変じて通訳者となる。
 ある施主から、設計者が要望を取り入れてくれない、という不満がもたらされた。具体的に聞くと、どうやら玄関周りの寸法をあと5cm狭くしたいというような類の話。基本設計の終盤か実施設計かと思いきや、未だ業務委託契約を交わしていないという。
 一方、設計者から状況を聞くと、あくまでも「受託前の相談」の延長で、親切心でプランを提出したものが、何度かやり取りをするうちに、実質的に基本設計の終盤のような状況になっているという。
 未だ契約も交わさず、報酬も受け取らず、施主に良かれと精一杯努力している設計者の行為が施主の不満の種だとしたら、こんな割の合わない職業はない。建築設計事務所、とりわけCMを行う事務所とは、真に難しい職業である。
 しかしこのケースは、明らかに設計者の手順前後に起因する。どのような流れで業務が進むのか、報酬料はいくらか、いつ支払うのか、契約は…。施主には、不安がいっぱいなのである。
 基本設計、実施設計、見積り、工事中、それぞれにトラブルは発生する。しかしその要因は、初期段階の説明不足と手順前後に起因することが多いようだ。2時限目の講義は、トラブル事例とその要因について考えてみる。

■3時限目(90分):ピュアCM業務の流れと書式

 筆者の事務所では、施主との初回面談時に何を話し、何を聞き取るかを決めている。ランでつながった設計者のパソコンには、「受託前業務」というフォルダがある。訪問客があると、居合わせた設計者が、このフォルダを開いて説明する。
 筆者(事務所の代表)が留守であっても、居合わせた設計者の誰もが対応できる。受託前の業務として、為すべきことを明確にしているからである。それでは、さわりの部分を再現してみよう。
 施主と簡単な挨拶を交わした設計者は、プロジェクターのスイッチを入れる。スクリーンにパソコンの画面が映し出される。受託前業務のフォルダを開くと、目次が現れる。10の項目がある。このうち初回面談時に説明するのは、上から6番目までである。
 最初の項目は「事務所の案内」。パワーポイントで編集した事務所の概要である。代表者の経歴、スタッフの紹介、事務所の特徴、主な事例、これらを10分前後で説明する。
 次の項目は「施主と家族に関する調書」。私(設計事務所)が自己紹介したので、貴方(施主)も自己紹介してください、という流れである。初回なのであまり詳しくは聞かない。ここでは、施主の住所、氏名、年齢、連絡方法、家族の年齢といった最低限のことを記入する。
 それから、「敷地に関する調書」⇒「業務の流れとスケジュールj⇒「建物の概要と業務報酬料】⇒「予算配分の確認」へと進む。これが、施主との初回面談2時間コースである。
「受託前業務」と同じく、「基本設計業務」「実施設計業務」「見積り・業者選定業務」「工事監理業務」「完成後の業務」のそれぞれに、必要書式が用意されている。
 3時限目は、ピュアCM業務の流れを書式に沿って解説する。数十種類に及ぶ必要書式の大公開である。

■4時限目(90分):VEから導かれる設計ディテール

 住宅業界の最前線で起きていることをつぶさに見聞きし、CMを行う事務所がなすべきことを知った筆者は、さっそく行動を開始した。施工単価の根拠を徹底的に分析しようと決意したのである。
 複数の専門工事会社から見積りをとり、最も相応しい業者を決める。これまで行ってきた分離発注の手法である。しかし、見積り比較は、イコール単価の根拠とはいえない。それは、「相場」に過ぎない。本当の根拠とは、現場での作業分析と改善がどこまで可能か、というところから割り出されるものだ。これがCMrを志す者にとって、現時点で最も大事な知識で、最も欠けている技術であると感じた。
 こういう考えのもとに、筆者の事務所では「技術革新会議」を立ち上げた。この会議は、午後4時〜5時の1時間、8名の設計スタッフ全員参加で毎日行っている。時には必要に応じて、専門工事会社の人にも参加していただく。
 施工現場での作業時間を分析し、比較・検討・改善を進めるには、同じ設計ディテールでなければ意味がない。設計ディテールによって作業時間がまちまちだからである。
 筆者の事務所では、これまで設計担当者が自由奔放(?)に描いてきた設計ディテールの再検討と標準化の作業に取り掛かった。その際、従来の工法に捉われない構造や、現時点で考えうる限りのVE案、施工手順の改善を盛り込んだディテールとした。
 4時限目は、筆者の事務所が取組んできた「技術革新会議」において検討したVE案と、そこから導かれた設計ディテールについて解説する。

■5時限目(90分):作業分析から割り出される施工単価

 CCI誌上で始まった新連載、『続・建築革命宣言!』第1回2月号で、筆者は、ビケ足場を例に「本当の施工単価の根拠」に触れた。そこで筆者は、一つの間違いと一つの情報不足による説明を犯した。
 一つの間違いとは、「ビケ足場は何回使えるか」について。筆者は、200回と書いた。しかしこれは、厳密には正しくない。ビケ足場の耐用年数は20年であり、そこから割り出される使用回数が正解である。
 ハウスメーカーやローコスト系の住宅なら、1現場に要する足場の期間は1ヶ月前後なので、20年間で200回はあり得る。しかし一般的な住宅は、足場を要する期間を3ヶ月として、20年間で80回というめが正解である。
 一つの情報不足とは、「足場を架け、解体する時間」の解説である。筆者は、総2階の床面積40坪の足場を架ける時間が、筆者の現場で7時間、筆者が入手した某工務店の資料では4時間と書いた。それは、間違いではない。
 しかし偶然に、もっと凄い足場会社の社長と出合った。その社長は、足場メーカーの開発に携わっていた技術者だった。足場を組み、解体する作業手順を追及していくうちに、メーカーにいるよりも、足場会社として独立する方が面白いことに気が付いた。
 その社長日く。「うちの会社では、2時間で組んでいる」と。そして、もう一言。「ね、山中さん、足場会社が倒産するなんて、あり得ないでしょう」と。
 筆者の事務所、あるいは大部分の工務店ではビケ足場7時間があたりまえ。それが、作業時間の改善を徹底的に進めた某工務店は4時間まで短縮。その違いに筆者は驚いた。しかし、まだまだ上には上があるのを知った。
 不況、不況を連呼する建築業界にあって、「技術」を徹底的に極めることで、確実に高収益をあげているところもある。しかも、ライバル他社よりずっと安い受注金額で。
 この業界には、まだまだ改善の余地が多くある。しかもそれは、30%、50%まで圧縮可能というレベルで存在する。この業界には、膨大な宝の山が眠っている。
それ掘り当てるのは、一体誰なのか。
 5時限目は、作業分析から割り出される施工単価の根拠について解説する。

※講習時間は、各開催とも10:00〜19:00まで
※昨年同様、(社)日本建築家協会、(社)日本建築士会連合会の認定プログラム。
※以上は2005年4月20日時点での予定。
申込み方法等、詳しくはこちら

 
 
DATA
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山中 省吾(52歳)
オープンネット且ミ長/去R中設計社長
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■プロフィール
1953年 北海道生まれ
1972年 米子高専建築学科卒業
1992年 オープンシステムを始める
1998年 オープンネット鰍創立/現在、300の設計事務所が会員に

オープンシステムネットワーク会議代表
住宅関連産業ニュービジネス支援策検討委員(経済産業省)
著書『価格の見える家づくり』コスモ・リバティ社 他
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