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『CAD&CG』2005年3月号
  土谷貞雄の現場監督を訪ねて〜『武藤昌一』

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土谷貞雄の現場監督を訪ねて

『武藤昌一』


PROFILE
武藤昌一●1956年千葉県生まれ。大学卒業後11年間、千葉県八千代市にある地場ゼネコンで設計/現場監理/積算業務を行う。90年に独立し、千葉県白井市に武藤建設を設立。99年に住宅を分都発注で行う建築家集団「オープンネット」の活動に加わり、2003年春に役員となる。現在は実務から離れ、会員290社に対する教育活動を行っている。
 今回は、オープンネットの武藤昌一氏を訪ねた。地場ゼネコンの現場監督出身である武藤氏は、1990年に独立し、千葉県白井市に建設会社「武藤建設」を設立。99年には建築家集団「オープンシステムネットワーク」(以下、オープンネット)に加わり、現在までCMr(コンストラクションマネージャー)として活動している。

オープンネットに参加し、ネットワーク作りに奔走

 武藤氏は大学卒業後11年間、地場ゼネコンに勤務。現場監理から設計、積算までこなし、会社の中心メンバーとして活躍していた。しかしバブル景気もかげりを見せ始めたころ、独立を模索。実家が鉄骨工場を経営していたこともあり、父親とともに鉄骨造をメインとする建設会社を設立した。ゼネコンの下請け業務が中心だったが、ALCなどの納まりまで考えられる便利な「鉄骨屋」として、受注数はうなぎ登りだった。

 しかし、バブルの崩壊とともに仕事は急激に減少。幸いにも、父親の付き合いから梨の直売所建設工事などを受注し続けたが、武藤氏は「このままでは生き残れないと思った」と当時を振り返る。もう公共事業だけで飯を食える時代ではない。そんなとき目に留まったのが、オープンネットを紹介する雑誌記事だった。

 オープンネットとは、住宅建築のCM(コンストラクションマネージメント)業務を受託している設計事務所同士のネットワークだ。主たる業務は、設計業務とその工事管理、発注にかかわる業務の代行を行うこと。工事は工務店を通さずに専門業者に分離発注している。その道営を支援する会社「オープンネット」(代表:山中省吾氏)は98年設立、鳥取県米子市に本社を構えている。当時の参加社数は30程度、CMという言葉も使われていない時代だ。それでも、彼らの「よい住宅を安く、顧客の立場に立って作っていこう」という情熱に共感し、入会を決めた。

 オープンネットが定めるルールは3つ。「請負はしない」「補償共済会を利用する」「公平に発注する」と実にシンプルだ。さらに、同社はその契約手法を「オープンシステム」と呼ぶ。「価格が透明化されている」という意味を込めたものだが、ブラックボックス化した建設業界へのアンチテーゼでもある。もちろん、大型現場ではそう簡単にはいかないが、住宅なら設計者の意思を現場のすみずみまで浸透させられる手法の1つだ。

 画期的ともいえるオープンネットだが、設立初期は知名度も低かった。仲間とチラシをまきながら受注活動を行ったが、受注はままならず、さらに工事を請け負ってくれる専門業者のネットワーク作りに苦労したという。日ごろ付き合いのある業者にさえ、オープンネットの精神や発注の仕組みを理解してもらえなかったのだ。しかし、分離発注をサポートする補償共済会を持っていたこと、ネットワークを通じて社会的な信頼を得たことで、その情熱の輪は徐々に広まっていった。

 地道な活動も2年を過ぎ、武藤氏は調剤薬局の設計/監理業務をオープンシステムで受注した。1棟経験したことでデータが蓄積され、コスト削減効果も実証できた。それが次の仕事につながり、2000年から2年間で6棟を受注した。会員も徐々に増え、02年末には200社を超えた。オープンシステムの解説書はベストセラーになり、同社代表の山中氏には講演依頼が殺到。それに伴って社会の認知度は向上し、専門工事業者のネットワークもでき始めた。武藤氏は03年春に同社役員に就任。実務の第一線から退き、現在は会員に対する教育を中心に活動している。

品質のよい住宅を適正な価格で作ることを追求

 武藤氏のマネージメント手法はオープンシステムの思想にのっとっているが、工程管理の方法論は少々異色だ。ポイントは、工種ごとの工程は極力ラップさせないこと。工程の引き継ぎはそれぞれの職人が立ち会いのもとで行い、工程ごとに工事の責任を確認し、完結させる。そのぶん工期は長くなるが、通常の住宅であれば、突貫工事を強いるメリットはほとんどない。施主にとっては、品質のよいものを確実に作ってもらうことが最優先。もちろん、工期は工務店の利益を左右するが、分離発注こよるオープンシステムでは必ずしも重要な要素ではないのだ。

 一方コストについては、よいものをいかに「適正な」価格で作るかを追求している。オープンシステムの特徴は、単にコストが安いことではない。コストを透明化し、調達/設計/作業効率の問題を関係者が一緒になって考えることだ。職人から知恵をもらい、施主にもー緒になって考えてもらう。場合によっては作業に参加してもらうこともある。もちろん、結果的にはコストが安く済むのだが、安さだけに焦点を当てると事の本質を見誤りかねない。ハウスメーカーの「坪単価いくら」といった売り方と比較されては困るのだ。

 ただし、このままでは「みんなの善意のおかげで安くなった」と言われかねないのも確かだ。そこで武藤氏は、職人の歩掛かりについて調査し始めた。本当に工数が減っているか、職人が自分の価値を安売りしていないかを検証するためだ。発注者の立場で仕事を進めるのが基本とされるCMrだが、発注者に射し第三者としての正当な見解を助言し続けること、職人を含めすべての関係者に公平な視点を持つことも必要になる。コスト削減だけに執心するのではなく、「報酬が安すぎる」と伝えるのもCMrの役割の1つだ。

仕事内容を透明化し、オープンシステムの価値を自ら検証

 このように、建設業務の仕組みやコストの透明化に取り組んできた武藤氏は、「オープンシステムの介入で建設コストが安くなることの意義を検証する必要性を感じる」という。その第1段階として着手したのが、仕事内容の透明化だ。情熱をかけて行う建築の仕事では、時に採算を度外視し、のめり込み過ぎてしまうことがある。武藤氏は、1日の中でどんな仕事をどのくらいしたか、後で振り返ったときにわかるよう、設計者自ら日報を書き、工数を管理することを提唱。工数を自動計算できるツールを開発し、職人の歩掛かりデータも蓄積している。

 以上からわかるように、オープンネットは数年前の建設業界や社会構造では考えられなかったネットワーク型の組織だ。現在、月平均約40棟を着工。もはや市場で無視できない規模のネットワークに成長した。文字通り全国に張り巡らされた会員は、メーリングリストを通じて日夜議論を交わし、会員から投げ掛けられた疑問は、次の朝には解決されてしまう。ネットワークを通じて研究/情報交換し、データベースを構築して実践の中でさらに検証を深める。自主的に進化するシステムを内部に持っているかのようだ。

「コストをオープンに」を掛け声にスタートしたオープンシステムだが、次の課題は見えないものを見えるようにすること。武藤氏を先導に、自分たちの仕事内容をオープンにしようと取り組んでいる。オープンネットがさらに強固な組織に成長する鍵は、そこにある気がする。
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従来の建築業務は、発注者(施主)からゼネコンまたは工務店が一括で設計/施工を請負、実際の施工は専門工事業者(例えばサブコン)などの下請け、孫請け会社に外注されている。それに対してオープンシステム会員設計事務所は、施主と請負契約ではなく業務委託契約を結ぶ。施工も、ゼネコンやハウスメーカーなどに一括で任せる従来の手法と異なり、施主と専門工事業者が直接、工事請負契約を交わす。業種ごとの専門工事会社に見積書を提出してもらい、提出された見積書はそのまま施主に公開。それを業種ごとに整理して内容/技術力/価格を検討し、発注する。施主や専門工事業者と連携し、透明性と自由性を確保しながら施主の立場に立って建築業務を進めていくことができる。

土谷の目
ネットワークを作って仕事をするには、ネットワーク上で密な情報交換を行える仕掛けが必要だ。オープンネットではメーリングリストを使い、会員各社の知識をデータベース化。活動は個別に行われるが、大きな組織と同じような密度の高い情報が常に更新され続けている。オープンネットは現代を象徴する革命的な組織といえる。
PROFILE
土谷貞雄●1960年生まれ。89年日本大学理工学部大学院建築史研究室修了。同年、伊ローマ大学に留学し、建築デザインと近代建築史を研究。その後ローマ、ナポリで建築設計活動に携わり、94年に帰国。ゼネコンで施工/設計/営業を経験した後、技術者のプラットホームを作るために2001年建設工学協議会を設立。主にCMの普及を行い、現場監督の理想像を追求している。
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