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第6章
この業界にいて体験した問題点
@丸投げの現場
1994年、私の事務所の隣で鉄骨の建物の工事が始まった。200坪位ありそうな店舗だ。現場の表示板には、○○建設とある。ところが現場に来ているのは違う建設会社の、○○工務店の人。よく知っている人だ。
「あら社長、ここの工事は社長のところがやってたの」。
話を聞くとこの工事は丸投げだった。しばらくすると、鉄骨が建ち始めた。知り合いの鉄骨加工会社の社長がいたので、声を掛けた。あまり大きくない鉄骨加工会社だ。
「社長、けっこう大きな仕事やってるじゃん」。
「○○鉄工から頼まれてね」。
鉄骨工事も丸投げだった。屋根や外壁や内装や設備はどうなんだろうか。田舎警察のようなまねはしたくなないので、それ以上詮索しなかった。工事の請負が何段階か通過すると、金額は思っている以上に大きくなるものだ。この現場の鉄骨工事を例とって考えてみる。
○○鉄工→□□鉄工→○○工務店→○○建設→お客様。
○○鉄工の鉄骨工事がお客様へ渡るまでに、4つの業者が介在している。仮にそれぞれの業者が15%の経費及び荒利を見込んだとする。そして○○鉄工は1000万円でこの工事を受注したとして計算する。
1000万円×1.15×1.15×1.15=1521万円となる。この計算はあまり短絡的な仮定のもとに計算した数字だ。仮定に大きな間違いがないかぎり、お客様はこの建物の鉄骨工事に1521万円支払ったことになる。直接○○鉄工に支払う事が可能だとしたら、差額の521万円は安くなったはずだ。
規模は違うが厚生省の補助金交付を受けて、次々と施設を建設していた福祉法人の代表が逮捕された。厚生省の事務次官なども逮捕され、辞任に追い込まれた。主に贈収賄が問題にされたが、これら一連の建設工事は丸投げが行われていた。福祉法人の関連の建設会社に受注させ、そこから別の建設会社に丸投げして、工事代金の差額を吸い上げるという錬金術だった。確か30億円くらいの工事だと5億円くらいの金額が手元に残ったと記憶している。
このようなことがいとも簡単に行われるのは建設業界のモラルもさることながら、建設プロジェクトの課程が見えない仕組みで進むというところに起因する。
A3500万円の見積りが1500万円に
同じようなことがつい最近あった。知り合いが建物を建てる目的で土地を買うことにした。その土地には既存の建物が建っていた。もともとあった古い建物は買い主にとって必要ない。けっこう大きな建物で、壊すのも大変そうだ。そこで売り主側が建物を解体し、さら地にして引き渡すことになった。かかった費用は買い主が負担するという条件で。
ところが売り主が見積もった解体費用は、予想外に大きな金額だった。買い主は私に相談に来た。解体工事をオープンシステムでやってみよう、ということになった。この辺りで実績のある解体専門会社、3社から見積りを取った。処理場の問題、安全監理能力等を考慮して、2番目に安かった業者に決定した。その結果、当初3500万円の見積りだった解体工事が、1500万円で出来た。ちなみに書店で市販されている建設物価で積算したところ、約4000万円だった。
後に分かったことだが、当初大阪の不動産会社が見積りを依頼した解体業者と、最終的に決定した解体業者は、実は同じ会社だったということがわかった。その時に解体業者が提出した見積り金額も同じ金額だった。
つまりこういう事だ。大阪の不動産会社(売り主)→米子の不動産会社→中堅ゼネコン→地元の工務店 →解体業者
土地の買い主が直接解体業者と取引することが出来たので、3500万円が1500万円になり、2000万円も安くなった。この単純な原理がオープンシステムだ。それに対して工務店は反論している。「建築は安ければ良いというものではない」と。
Bゼネコンの商社化現象
1989年頃、世の中は、まさにバブル景気に浮かれていた。ある仕事でゼネコンの支店長と現場へ同行したことがある。黒塗りの車に運転手付き。さすがゼネコン、リッチなものだ。その車中でこんな会話をしたことを、覚えている。
「山中さん、私の会社(ゼネコン)は商社になることを目指しているんです」。
「といいますとどういうことでしょうか」。
「こんなに物件が多くまた大型化してくると、一つ一つ全部自社の社員で現場をこなしていけんようなりましてね」。
「ほう、景気のいい話しですね」。
「現場の技術者を本社や支社に戻らせて企画と営業に集中させ、取った仕事はサブコンに全部振るようにしようと思っとるんです」。
建築を流通ととらえ、物件を動かすことによって利益を上げるというのはまさに商社機能そのものかもしれない。
「支店長さん、私の考え方は全く逆です。ゼネコンと同じ事をすでに下請けがやってますよ。鉄骨業も内装業も設備業も、みんな商社を目指したら最後はどうなるんでしょうかね」。
そうなのである。すでにご存じの通り、バブルがはじけた。株や土地といった物質面だけが取りざたされてきたが、背景にはバブル的な考え方生き方がちゃんと存在していた。ところがはじけたのは表面に見える現象だけで、考え方生き方はまだ残っている。だから日本経済は苦しんでいる。少し前までだと専門工事会社、いわゆる下請けは自分のところが忙しいときに、新しい仕事をたのまれたとすると、そのときは訳をいって断るか、あるいは同業の仲間を紹介してあげたものだ。
ところがいつのころからかどんどん仕事を受注して、同業者にさらに孫請けに出し、差額を儲けるということが行われ出した。そのほうが効率良く儲かる。その結果、80年代前半は鉄骨の加工組立の費用が材料費を含めて1トン当たり18万円〜20万円が相場と言われていたものが、80年代末には30万円位まで上昇した。今は反動がきて苦しんでいるところがたくさんある。
このような商社化現象が建築産業ではたくさん発生し、今もちゃんと機能している。内装会社、電気工事会社、給排水設備会社は、特に進んで?いる。実際の現場では、いわゆる外人部隊が中心に施工をしている。
C営業費用がエスカレート
オープンシステムを始めて2年くらい経った頃、ある工務店の社長が事務所に来た。以前からまんざら知らない仲ではないので、お互い気軽に本音で話しができる。
「山ちゃんはいいよな。デザインができてそれに一軒一軒こうやって模型を作って、絶対、競争力あるよな」。
「○○ちゃんも模型ぐらい作ればいいじゃん。うちより経費たくさん取ってるんだから、それぐらいやってもいいんじゃないの」。
「模型なんかつくっとたら、手間がかかってかなわんわ。山ちゃんが思うほど、工務店は儲かっとらんのよ」。
そう、工務店は沢山経費(荒利)をとっているわりには、あまり儲かっていない。社長の話(愚痴)をかいつまんで説明すると、こういうことだ。ハウスメーカーから責められ、ライバルの工務店から責められ、とにかく仕事を受注するために、ものすごいエネルギーを注いでいるそうなのである。
総勢12人の社員のうち営業が4人、社長自身も営業の先頭に立っているようなものなので、5人が毎日営業に走り廻っている。毎朝打ち合わせをして、ターゲットを絞り込み、ローラー作戦をかける。その中で浮上してきた客をランク付けする。見込みなし、見込み客、将来見込み客、というふうに。
5人で年間に約2,000件の家庭を訪問するらしい。その中で、見込み客が200件近く浮上してくる。200件の見込み客に対しては、一日も早く住宅の計画案と資金計画案を作成し持って行く。当然、他のライバル会社も営業に来る事が予想されるからだ。1年間に200件の計画案を作る作業というのは、私から見るととんでもない作業だ。1年のうち実際に働く日数が延べ250日とすると、200件÷250日=0.8件/日。つまり、毎日0.8件の住宅の計画案と、資金計画案を作っていることになる。しかも無料(サービス?)で。
そのようにして、最終的に受注出来る建物の件数は、年間に20件前後だという。なんという効率の悪さだろうか。さらに定期的に完成見学会等を行い、そのときに作るチラシ、パンフレットの費用が、年間に約300万円かかる。
まだある。コンサルタントの専門家を呼んで、年に2〜3回指導を受けている。マーケティングの仕方、営業、宣伝の手法などだと思う。米子に1回呼ぶと旅費、ホテル代、報酬料を含めて、約100万円掛かるそうだ。
社長は嘆いていた。「働いても働いても、人件費や経費で持っていかれる。山ちゃんはいいな。営業しなくても仕事が取れるから」。
「そんなに費用がかかるような営業はやめて、中身で勝負すべきじゃないの」と言っても、「分かっているけど、よそが激しく営業してるから」と、まるでいたちごっこだ。
結局、荒利が最低25%以上ないと、利益が出せないそうだ。従業員に飯を食わせなければならない、と彼はいう。その家族もいる。気持ちはよく分かる。だけど少しおかしくないだろうか。業者サイドの理論だけでものを考えているのではないだろうか。
客の立場で考えてみよう。仮に住宅を2,000万円で契約したとする。そのときの経費(荒利)は25%として500万円。その中には無料でサービスした2,000件の家族訪問の費用、200件の計画案の費用、宣伝広告費、コンサルタント費用、全てが含まれている。これらの費用はほとんどが受注するまでに必要な営業費用だ。
ちなみに私の事務所は、2,000万円前後の住宅を例にとると、設計料が約7%、管理料が約8%、合計15%くらいが業務報酬として受け取る金額だ。実際にはパーセントで業務報酬を受け取るのではなく、金額で決めている。その目安が予定価格の15%くらいだ。
私の事務所は、当然設計事務所であるので、得意技は設計業務そのものだ。コンセプト作りから始まって、基本計画、模型による検討、実施設計、さらに各専門工事会社による見積り、発注、工程管理と進む。
従来の考え方なら、設計事務所に本格的な住宅の設計を依頼すると、工務店に支払う工事代金とは別に設計監理料を支払わなければならない。ところがオープンシステムという手法で建築すると、結果的に全体で20〜30%安く建築できる。つまり発注者からすると、ただで設計をしてもらった上に、配当金まで受け取ったのと同じ結果になる。
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