第1章
  建設業を取り巻く環境

第1章 建設業を取り巻く環境

  
@建設業界の特殊性
    この文章は日本積算協会「建築と積算」1997.12月号
        に執筆した内容の一部です)

 建物を建てる際、建築主はほとんどの場合、元請けとなるゼネコンあるいは工務店と工事全体を一括で請負契約を結び、発注する。あとは設計と施工を分離するかどうかの選択である。もっともそれ以外に、発注者にとってどんな選択の余地が有ったといえるのだろうか。私達設計者も、『それが当たり前』と、この業界で仕事をしながら、ずっと思っていた。

 ところが今、金融業界がやり玉にあがっているように、商取引や経済行為で、今まで『常識、当たり前』と思っていたことでも、実は世界から見ると『非常識、特殊事例』というケースが多かった。日本の建築業界も世界から見ると、やはり特殊なケースだったのである。

 『お上のいう通り』にやってきて、あえて問題点には触れなかった、というようなことを私達建築設計者も、大なり小なり経験してきた。このような状況は、建築のマネジメントが育つには最もほど遠い環境であった。

 海外ではPM/CM(プロジェクトマネジメント/コンストラクションマネジメント)あるいはDB(デザインビルト)など、建築主にとって多くの選択肢があるという。日本でも最近、これらPM/CMに対する社会的要請が強まってきた。いろんな角度から建築を分析し、プロジェクトを完成させるために、最もふさわしい手法を選択できる環境、というのは望むところであるし、建築主にもどんどん情報を公開していくというのは好ましいかぎりである。

 いたずらに日本の建築業界の現状を否定して、変革を望むことが良いとは思わないが、これだけ世界とギャップがあると、日本人の価値観がどこかおかしかったのではないかと疑ってしまうことがある。一応民主主義のスタイルをとってはいるが、形だけ真似た偽物だったのかもしれない。人権よりも金券に価値を求めて、エコノミックアニマルと言われようが、拝金主義者と言われようが、それが当たり前と疑わなかった。というような精神構造、社会構造が、今問われている。
Aゼネコン、工務店を取り巻く環境

  (この文章は1997.9全国住宅供給公社等連合会
      総務担当者会議で講演したときの一部です)

 施工会社といっても、ゼネコン、工務店、ハウスメーカー、専門工事会社等さまざまな形態がある。大きくは、元請けとなって工事を一括で受注することが出来る会社と、下請けとして専門業種に特化している会社とに分けられる。

 元請け会社とはゼネコン、工務店、ハウスメーカーのことをいい、下請け会社とは基礎工事、鉄骨工事、木工事、左官工事、防水工事、サッシ工事、建具工事、塗装工事、内装工事、電気設備工事、給排水設備工事、空調設備工事等細かく分類すれば、50業種位はあると言われている。

 建設業と他の業種の大きな違いは、元請けとして工事を受注したゼネコンや工務店が、工事現場ごとに必要な多くの専門工事会社を寄せ集め、下請けとして外注に出すことによって成り立っている、というところにある。多重下請け構造と言われる建設業の特殊性である。

 かつて建設業は、技術の主要な部分は元請け会社が押さえ、資材を調達し、下請け会社は役務(労働力)の提供という色合いが濃かった。ところが建設需要の拡大に伴い、元請け会社は下請け会社に、資材を含め各業種ごとに一括して外注するようになった。企業としては、そのほうが効率が良かった。

 下請けの専門工事会社は、自分の専門業種に関して資材や機材の調達から安全管理まで含めて、全て任されることによって、技術やノウハウをしだいに蓄積していった。つまり、元請け会社(ゼネコン、工務店)から、下請けの専門工事会社に、技術とノウハウが少しずつ移転していった。

 さらに、元請け会社でなければけっして出来なかった部分、例えば施工図の作図や、現場管理そのものまでも外注するようになった。もっとも施工図に関しては、技術とノウハウが専門工事会社に移ったので、それは必然の結果ともいえる。

 その結果、元請け会社には、工事を受注する為に必要な営業や企画、調査、設計等のサービス業務、工事の内容を分解して、それぞれの専門工事会社に発注する業務、現場の工程を監理する業務が、主な業務として残った。

 このように、各業種毎に全て外注、という体制を整えることによって、元請け会社の生産性は伸び、利益につながった。究極の外注は、受注した建物全体を別の元請け会社に一括外注することであり、商社のような機能を目指すゼネコンも現れた。

 ところが、建設業にとってこういった成熟(?)した業態そのものが、建設業自らに、特に元請けとして機能してきたゼネコンや工務店に、ある種のジレンマとして跳ね返ってきた。

 というのは力を付けた専門工事会社の中から、自社でしか出来ないような新技術やノウハウを身に付け、発注者に直接アプローチするようなところが出てきたからである。商社系の専門工事会社や鉄骨メーカーなどには、元請けとして全体の工事を受注するようなところも出てきた。

 また、設備工事に関する専門工事会社などを中心に分離発注が進み、次第にゼネコンや工務店の手から工事が切り離されてきた。この傾向はやがて他の専門工事会社にも拡がっていく傾向にある。

 元請け会社は下請け会社に外注に出した費用に上乗せして、発注者に工事金額を提示している。元々、工事費全体の中から、グロスで利益を出せばよい、という体質から、営業費用、各種調査費用、企画、設計費用等は、見積書に明確に記載していない。受注する為の手段(サービス)として、極めてファジーに、下請として外注している専門工事会社の見積もりに上乗せしてある。

 このことは分離発注の拡がりや、専門工事会社レベルの価格が発注者に明確になるに従って、益々元請け会社(ゼネコン、工務店)を苦しい立場に追いやることになりつつある。
B設計事務所を取り巻く環境

  (この文章は1997.9全国住宅供給公社等連合会
     総務担当者会議で講演したときの一部です)

 私は当地鳥取県米子市で設計事務所を開業している。10年前に仲間3人でスタートし、現在7人のスタッフが居る。どこにでもあるような、平凡な事務所である。いわば全国の設計事務所の平均値、あるいは全国の設計事務所の縮図といえるかもしれない。従って、事務所経営の難しさや苦労は、一通り体験してきたつもりである。

 建築の設計事務所といっても、1人、2人でやっている事務所から、1000人を越えるような大きな事務所まである。ここでは20人以下の事務所をイメージして話を進める。おそらく全国の事務所のうち、90%以上はこの中に入っていると思う。

 私は74年の春(23年前)に設計事務所に就職した。その頃の建築業界は、設計業務と施工業務を担う会社が、まだはっきりと分離していた。つまり、設計業務は専業の設計事務所が、施行業務はゼネコンや工務店が担っていた。一部のゼネコンを除いて、総合建設会社の設計能力がまだ未熟であり、設計スタッフも充実していなかった。

 やがて設計施工を謳い文句に、地方の工務店に於いても、少しずつ自社の中に設計事務所を登録するところが現れだしだ。それでも専業の設計事務所の人達は、あまり脅威に感ずることもなく、大らかに受け止めていた。工務店は設計の看板を上げただけであり、設計スタッフも整っていないから、いずれにしても自分達に仕事が廻ってくると。

 事実、ゼネコンや工務店が設計施工で受注した物件でも、設計業務の大部分は専業の設計事務所に廻ってきた。設計事務所はゼネコンや工務店を、得意先の顧客として、仲良く共存する道を選んだ。

 当然のことではあるが、いつのまにか社会的に不安定な立場に追い込まれていた、というのが現在設計事務所が置かれている状況ではないだろうか。

 高度経済成長の恩恵と、安定した公共工事を追い風に、ゼネコンや工務店はどんどん力を付け、資本を蓄積した。営業スタッフ、設計スタッフの強化をはかった。そして、受注した工事費全体の中で、設計費用や営業費用をとらえ、グロスで利益を出すことが出来ればよいのであるから、顧客に対してはおのずと設計業務はサービス、という色合いが強くなってきたのもやむを得ない。

 一方設計事務所は、自己の存在をデザイン力に求め、施行会社の設計との差別化の方向へと向かわざるを得なくなった。建築のジャーナリズムも、新しいデザインの地平を切り開いた設計者や建物を中心に取り扱った。

 デザイン中心に特化した設計事務所は、建築のコストのことや、施行上の細かい納まりを、しだいに施行会社に委ねるようになった。設計図を描いても、施行会社が現場サイドでもう一度施工図を描かなければ、工事が出来なくなった。

 このようにして、設計事務所は益々社会的に不安定な立場になった。技術的に成熟した現在の建築業界において、設計事務所の設計と、ゼネコン設計部の設計と比較して、デザイン的にどれだけの差があるというのだろうか。また、研究熱心な工務店やハウスメーカーと比較しても、同じことがいえるのではないだろうか。

 ということは、建築工事において実勢価格を把握することが出来ず、施行面に疎い設計事務所は、何処に存在価値を求めればよいのだろうか。本当に世の中にとって必要な職業なのだろうか。ここに設計事務所の本質的な苦悩があるように思う。
C建築のコストについて  

  (この文章は日本積算協会「建築と積算」1997.12月号
      に執筆した内容の一部です)
 
 「オープンシステム」以前、まだ普通の(?)設計事務所だった頃、「建築のコストとは何か」ということを考えさせられることが何度かあった。そしてこの度、日本積算協会から原稿の執筆依頼と共に「建築と積算」という雑誌が送られてきて、そこには建築のコストをめぐっての特集が組まれていた。建築積算のプロを自認する人達の中にもコストに対する考えかたがまちまちで、多少困惑している様子が見られた。おそらくこの問題はCM/PMという考え方がやっと定着する兆しが見え始めた日本の建築業界に於いて、これからさらに議論を深め、体験を積み重ねながら徐々に結論が導き出されていくことであろうと思う。

 ちなみに、私達が仕事をしている地方都市(鳥取県米子市)には積算事務所というものが無い。そのような需要が無い、ということかもしれない。大都市には建築の積算数量と単価をはじき出す業務で、このように大きな職能集団としての地位を確立している人達がいるということに改めて感心した。

 建築プロジェクトに於ける見えない部分の代表格、それがコストである。今回「オープンシステムとコストを含む実施事例」というテーマでまとめるよう課題を与えられた。私達の事務所がこれまでに携わってきた事例は、小規模な建物の事例ばかりであり、反対に積算事務所の業務は大規模建築物が中心だと思う。従って、実際に携わっている業務にはそぐわない内容も随分あると思うが、出来るだけ事例をまじえながら「オープンシステム」以前と以後に於ける私達のコストに対する考え方や捉え方の変化などを比較してみる。その中で設計事務所にとって、コスト管理、コストコントロールが何故必要なのか、ということが少しでも見えてくるなら幸いである。

 さて冒頭に戻って「建築のコストとは何か」を考えさせられるようなこと、というのをいくつかあげてみる。これはなにも特別な例ではなく、設計に携わっている人なら誰もが経験することだと思う。

 その1・新商品の売り込むなどで、建材メーカーや建材店の人が設計事務所にPRに来る。そして価格を聞くと、「設計価格」というものを答える。そもそも設計価格というものは何だろうか。定価、設計価格、ゼネコン価格、専門工事会社価格、市販されている建設物価、積算資料の価格、さらに公共工事用のマル秘の価格、建築業界にはいろんな価格がある。いったいどれが本当の価格なのだろうか。

 このようなことに対して以前はしょうが無いか、設計者には本当の金額を言う筈が無いと半ば諦めていた。最近は違う。メーカーが商社に売る金額までは勘弁してやるが、せめて建材店が工務店に売る金額は聞き出すことにしている。答えないと見積りに参加させないと脅しながら。

 その2・「オープンシステム」以前は共同住宅の設計が多かった。現場説明や見積り合わせにもよく立ち会った。建物の規模からして、地元の工務店数社から見積りをとるということが多かった。施主にとって、付き合い上できれば工事をさせてやりたいという工務店もたまにある。しかしその工務店がいちばん安い見積りを提出するとは限らない。ところがこういった場合でも最後は不思議と丸く(?)収まるのが建設業の凄さである。

 その工務店はほとんどの場合こう申し出てきた。「いちばん安かったところに合わせるので、是非我が社にやらせてほしい」と。たったそれだけで2億円くらいの見積りが1億6千万円くらいになったりした。それでは最初に提出した見積書はいったい何だったのか。

 「オープンシステム」では少なくともこのようなことは解消された。ゼネコンや工務店といった元請けの会社が見積りに参加してくる場合、見積書の各項目には直接下請け(専門工事会社)に支払う金額を記入することを条件付けている。そうでないと、専門工事会社グループから出てきた見積書と比較され、下請け会社はどんどん入れ替えられる。

 その3・この事例は現在進行形、オープンシステム経験後である。知り合い(施主)が住宅を立て替えることにしたというので相談があった。場所は千葉県なのでとても「オープンシステム」では対応出来ない。そこで一度現地を見たうえで基本設計のみさせて頂いた。実施設計と施工は施主が商社系のハウスメーカーに直接依頼するということだった。

 しばらくすると施主が「実施設計と見積りをチェックしてほしい」と言ってきた。設備関係の図面が十分でなかったので、とりあえず建築主体工事の単価をチェックした。送られてきた見積書の上に専門工事会社レベルの単価を落とし込んで計算すると、4,600万円の見積りが1,334万円ダウンした。ただし諸経費の390万円はそのままにしておいた。

 施主は私が上書きした見積書をそのまま施工会社に見せ、再検討してもらうことにした。そうしたところ当初の見積りより700万円安い見積書が再度提出された。設計内容は変更していない。これはいったいどう解釈すれば良いのだろうか。

 私達設計者が、実際に分離発注で契約している各業種ごとの単価まで明示する訳だから、ハウスメーカーや工務店には相当ショックであり、インパクトがある。
D設計事務所のコスト把握力  

  (この文章は日本積算協会「建築と積算」1997.12月号
     に執筆した内容の一部です)

 公共工事の設計を受託すると、通常積算業務まで必要になる。積算数量の算出については、専門家の方々に対して私ごときが何も言うことは無い。問題は単価である。私は他県や国の工事は経験が無いので、鳥取県で経験した狭い範囲のことでしか分からない。

 公共工事の設計金額を弾く際、まず鳥取県建築士事務所協会作成の単価表から該当する項目に落とし込んでいく。どういう訳かこの単価表には表紙にマル秘という印が押してある。このマル秘の単価表に無い項目は市販の建設物価や積算資料を使う。それでも該当しない項目は専門工事会社やメーカーなどから見積りをとり、適当に8割とか9割とか掛けて記入する。この積み上げの総和が建設工事費の目安となり、発注者はそれに5%あるいは10%カットして落札予定価格を設定する。

 さてこういった見積り作業の中でこれらの単価が実状にそぐわないと主張した場合、設計者はどのような方法で自分が作成した見積り単価の根拠を示すことが可能なのだろうか。根拠を分析すればするほど矛盾が露呈するはずである。

 そもそも建築士事務所協会の単価表の価格は何を根拠に作成したかというと、例えば木製建具工事なら建具工事組合とかいうところが依頼を受けて単価を作成している。どのみち自分たちが工事をすることになる金額をまとめるわけであるから、それは希望価格である。ゼネコンや工務店とぎりぎりの折衝をして、損益分岐点を知り尽くしている専門工事会社が、公共工事の建具工事はこうあったらありがたい、どうせ元請けが2、3割カットするからその分上乗せし、さらに安全率も掛けておけという金額である。

 事務所協会はその金額を鵜呑みにして編集作業をし、単価の根拠に対してお墨付きを与えた。設計者はお墨付きの単価表を金科玉条に、公共工事の設計見積りをはじく。単価表を隅から隅まで暗記してるほど、コストに造形が深いと思っている設計者までいる。そして発注者である治自体の職員は、事務所協会の単価を採用したというと安心し、下手に設計事務所が独自に調査した単価をいれようものなら、余計なことをするなと叱られ、疎んじられる。だからこの辺のことを理解している設計事務所は、民間工事に於いては積算などしても意味がないというところも出てくる。

 実際設計事務所はどの程度まで建築のコストを把握できているのだろうか。また把握する手段があるのだろうか。

 コストについては「何をコストとするのか」という議論があるのは承知している。しかしこの問題に突っ込んでいくとややこしくなるので、別の機会に譲ることにする。ここではとりあえず専門工事会社が請け負う金額の合計を工事原価とし、必要な諸経費を加えたものを建築工事費として話を進める。

 我が国の建築工事は元請会社が工事全体を一括で請負い、各専門工事会社に工事を分配することによって成り立っているが、その多重下請け構造が建築の価格を複雑、不透明にしている最も大きな原因であると思われる。それ故、工事現場で直接工事をしているそれぞれの専門工事会社の金額(工事原価)を明確にし、そこから必要なものを積み上げていこうという考え方が必要である。

 正直言って私の事務所が「オープンシステム」を始めるまでは、工事原価に関して調査をする手だては全く無く、あくまでも推定の域を出なかった。もっぱら事例にあげたような単価表に頼らざるを得なかった。

 それではゼネコンや工務店から提出された見積書が沢山揃っているなら、それを分析すればよいではないか、という考え方の人もいると思うが、それもナンセンスである。ゼネコンや工務店の明細書は実際に専門工事会社(下請け)に支払う金額が記入してあるのではない。元請けとしての利益や経費も上乗せしてあり、しかも全ての項目に同じ率で乗せているわけではない。そこにはそれぞれの元請け会社としての戦略が盛り込まれており、いかに受注し利益を確保するか、というストーリーがある。フィクションの小説を読むようなものである。実際、発注者に提出するための見積書と、工事原価を記入した実行予算書の2通りあるのはご存じと思う。

 結局市場で動いている工事原価は、価格の決定権と発注権をもった上で、専門工事会社と価格交渉を繰り返していく中でしか把握は出来ない。従って現在の設計事務所のようなデスクワークではけっして工事原価は見えてこない。既存の価格表に頼らざるを得ないあいだは、あくまでも参考金額の域を出ない。




E直接工事費と経費の明確化 
   
   (この文章は日本積算協会「建築と積算」1997.12月号
      に執筆した内容の一部です)

 元請け会社は工事全体を一括で請負契約を交わすので、建築工事費をどうしてもグロスでとらえようとする。場合によって設計料やその他のサービス料は無料ということも可能になる。只より高いものは無いというが、経費やサービス料をそれぞれの項目に盛り込んだ見積明細書では、それを受け取った発注者や設計者にとって、あまり意味が無い。発注者や設計者にコストを分析する能力が無いかぎり、中身の明細はともかく、トータルでなんぼ、というところにどうしても結論がいってしまう。

 発注者にしてみれば結果オーライなら良いではないか、ということもいえるが、それではいつまで経っても、設計事務所が主体的にコストコントロールをする、などというのは不可能なことである。あてにならない参考内訳明細書の何パーセントが基準では、説得力を持たない。ただし目安にできるというのであれば、それなりの意味はある。

 建築施工会社の商品が工事を完成させる為に必要な技術力であるとしたら、建材の価格の中に利益を乗せて発注者に提示するのはおかしなことである。そうであるなら、ゼネコンや工務店は建材店を兼用していることになる。また、各下請け会社(専門工事会社)に支払う金額に上乗せした見積書を発注者に提示するのもおかしい。それでは別項目で諸経費を計上すべきではない。下請けに工事を配分して利益や手数料を吸い上げるのが建設業だ、という誹りを受けてもやむを得ないことになる。

 いずれにしても今の状態は健全とはいえない。建築需要が拡大傾向にあったからこそ、吸収できたのである。これからはこういった建設会社の体質そのものが、自らの首を絞めることになる。

 設計事務所は専門工事会社から直接、工事費を把握する手法を考え出さなければならないし、そのデータを分析して、コストを主体的にコントロール出来るようにしなければならない。そして、施工会社の見積書はまず原価(専門工事会社の金額)をチエックし、そこから必要な技術料、経費を積み上げていくという考え方をしなければならない。

 そのためには結局、設計事務所が「発注権限を持つ」というところまで踏み込まなければならない。尚かつ発注権限は、どの専門工事会社をどれだけの金額で採用するか、という権限まで持たなければならない。

 「オープンシステム」の基本はあくまでも分離発注である。私達の設計図を基に、業種ごとに有る程度競わせて見積りをとる。基本的にはそれぞれの業種で最も金額の低い専門工事会社と設計内容を再検討し、さらに価格交渉したうえで施工会社を決定していく。

 工事金額と支払日の一覧表で建築主から了解が取れたら、工事請負契約を結ぶ。契約を結ぶ日は住宅であるなら15社から20社くらいの専門工事会社が、建築主の元に一同に会する。そこで一社ずつ順番に挨拶を交わしながら契約を結んでいく。そこには元請け下請けという関係は無く、私達設計者を含め、全ての専門工事会社が建築主のパートナーという立場となる。さしずめ私達設計者はオーケストラでいうならば、指揮者という役割であろうか。工事が始まると現場は私達設計者が組んだ工事工程表に則って、お互いのコミュニケーションを取りながら進められていく。

 建築設計事務所も随分専門的に細分化されてきた。構造設計、設備設計、積算設計と。それぞれの専門分野に於ける知識や能力は飛躍的に向上したであろうが、建築のマネジメントは建築の全体を捉えようという視点を持たなければ、上手くいかないような気がする。

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