コラム/ちょっと一息
オープンシステム設計事務所のコラムです。
 

第7回 奇襲戦法が功を奏した記者発表
  山中省吾 1999.06.21

ありがたいことに、オープンネット設立以来、毎週1社のペースで正会員(設計事務所)が増えつつあります。今日現在で36社になりました。ほとんど宣伝や勧誘もしていないのに問い合わせが途切れないのは、やはりメディアに取り上げられたことが大きいと思います。

正会員は私が面接をし、さらに4人の取締役の承認を得てから正式な入会となります。堅苦しいようですが、従来の設計事務所の枠を超えて新しい分野へ踏み込む訳ですから、お互いの考え方を良く確認し、理解し合ったうえで入会して頂くほうが良いだろうという考えから、このような手順を踏ませて頂いています。面接はなるべく私の出張の日に合わせて頂いて、東京や大阪など交通の便のよいところで待ち合わせをして行ないます。それでも日程が合わなかったりすると、わざわざ米子までお見えになる方もいらっしゃって、大変申し訳なく思います。

今までにお会いした設計事務所で、8割くらいの方が入会なさったのではないかと思います。建築業界はどこかおかしい、設計事務所もどこかおかしい、という疑問を持っていらっしゃる方がほとんどで、オープンシステムのような考え方を模索していた、あるいはそれに近いことをやってみた、という方もいらっしゃいます。

本題です。オープンネットの将来構想は固まったのですが…。進むべき方向も定まったのですが…。さて、どのようにしてこの構想を実現するか…。オープンシステムの考え方とネットワークの構想をどのように伝えるか…。とにかく多くの人に知っていただかないことには広がりません。日本全国の、この広い盤上の、何処に第一手を打つか…。

定石通り、新聞広告を考えました。たった1回の広告で、なんと数千万円。とてもこのような費用は捻出できません。口コミだけに頼ってもあまりにスピードが遅い…。地方からいかにして全国に情報を発信するか…。そこで考えたのが記者発表です。丸腰で東京に乗り込んで、記者発表をするという奇襲戦法に出ました。費用はほとんどかかりません。ダメでもともとです。どこかのメディアが、たとえ1社でも私たちの考えかたに賛同してくださり、記事にしてくださったなら…大成功です。

東京都千代田区大手町の経団連会館で行なった記者発表。一般紙、建築専門紙(誌)、経済紙、婦人誌など約100社に案内を出しました。そして、約30社のマスコミの方が参加してくださいました。さらに、ラッキーなこともありました。発表席の私の隣りに野村證券米子支店の若い社員、青山圭介さんが座ってくださったからです。彼は私の記者発表に非常に興味を持ち、めったに経験できることではないからと、同席してくださったのです。これで、記者発表に重みを増したのは事実です。私一人だとどんなに心細かったことか…。

青山圭介さんは野村證券の新入社員です。見るからに若き熱血漢といった感じです。体育会系と自ら言うように真直ぐな好青年です。相手の顔を真直ぐに見て、一生懸命に話をしながら、感情の動きが汗となって顔ににじみ出てくる、彼はそんな真剣さと純情さを持っています。

「質問がきたらどうしよう…」
「だいじょうぶだから、ぼくが全部答えるから…」

20分間のプレゼン(記者発表)に続いて質疑。一流記者は鋭い質問を次々と投げかけてきます。私も極限の緊張状態だったのでしょう。何を聞かれて何を答えたのか、ほとんど思い出すことができません。その時間も長かったのか、短かったのか…。あっという間に終わったような気がします。時計を見ると記者発表が始まってから、ちょうど1時間が経っていました。隣の青山さんを見ると……彼は顔中汗だくでした。

青山圭介さん、ありがとう。あなたが同席してくださったおかげで、どうやら成功しました。あなたの、「おもしろそうだな、わくわくするな」というミーハー(失礼)、好奇心が良い結果をもたらしました。このコラムで改めて御礼を言います。

記者発表終了後、週刊東洋経済の高橋由里記者より取材を受けました。とても知的で美しい女性記者です。的確な質問と飲み込みの早さには感心するばかりでした。東京は凄いな、凄い人がいくらでもいるな、と田舎もんのミーハー二人は、東京での一日を十分に堪能したのでした。

「青山さん、どこか記事にしてくれるかな…」
「書いてくれるといいですね…」
翌日、オープンネット鰍フ事務所は、朝から電話が鳴りっぱなしでした。日本経済新聞、山陰中央新報、日本工業新聞、日刊工業新聞、建設通信新聞が記事にしてくださったのです。その後も、週間東洋経済、日経産業新聞、住宅ジャーナルなど、多くのマスコミが記事にくださいました。本当にありがとうございました。

奇襲戦法は功を奏しました。メディアに取り上げられたのはまったくもって幸運でした。でも、いつまでも記者発表の遺産で食べていくことはできません。戦況は刻々と変化しています。まだ序盤の布石が始まったばかりです。次の一手を何処に…。終わりの無い戦いの、一手一手に、これからずっと苦吟が続くのでしょう。

本因坊10連覇を達成した、趙治勲物語「独り、荒野をめざせ」を読みました。その中のインタヴューにこうありました。

〜〜〜いくら努力しても私たちは元のままにとどまっているが〜〜〜

● 努力してみても、大部分はそんなところでしょう。でも、だからといって何もしないわけにいかない。その努力も、才能がないとできないんですよ。努力する才能というのがあって、才能がなければ努力できないと思う。

〜〜〜プロ棋士でも、勉強になるから解説とかやらせてくださいと、自分から買って出る人は、けなげだけど…。〜〜〜

● うーん、それはわかる。まじめだからね。でも、勉強しようと思えば、カネを得ては駄目ですよ。そういう仕事をして、当人はたしかに勉強になっているかもしれない。でも、中途半端だと思いませんか。ほんとうに勉強しようと思ったら、赤字じゃないと駄目。投資しないと。たとえば、一週間なら一週間、碁盤に向かうとするでしょう。その時間は収入ゼロで、食い潰してるわけです。収入は赤字です。努力とか勉強とか、そういうものではありませんか。

何故か囲碁の話で終わってしまいました。小生の趣味は囲碁なのです。それと、ウィンドサーフィンも。どちらも今は中断です。すべてを建築革命にかけています。
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